色は匂へど 散りぬるを
我が世 誰ぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて
浅き夢見じ 酔ひもせず
いろはにほへと ちりぬるを
わかよ たれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす
耳を掠めるのは
19インチのモニタに 張り付いて
1ピクセル単位のズレを調整しつつ
口髭を撫でたり 眉間に皺を寄せたり
煙草を燻らしながら コーヒーを飲みつつ
神経回路が 麻痺するくらい
あーでもない こーでもないが
灰色の脳細胞を 駆け巡る
フッと気を抜いた瞬間
君の寝息が 耳を掠める──
モニタから 視線を外すと
傍らには 安らいだ君の寝顔
ダウンフェザーの羽毛布団に抱きついて
赤ん坊のように丸まっている君は
今 どんな夢を見ているのかな?
しばらく 手を休め 一服
煙を吐く口元が 綻ぶ
日常の切り出し - 負の文化
とあるコンビニでのひとコマ──
「セブンスター2個下さい」
レジで小銭を出しながらvincent.
「済みません。1個しかありません…」
煙草をカウンターに置き、レジの女の子。
「あぁ。じゃ、1個でえぇよぉ」
「このままでよろしいですか?」
「うん」
コンビニでの会計時は、大体、相手の顔を見ずに手元だけを見ていることが多い。
何を思ったかレジの女の子。袋なしでも店外持ち出しOKの目印「サンキューシール」を丁寧に煙草に貼り付けてくれた。
少し「?」な面持ちで女の子の顔を見ると、彼女もキョトンとしている。胸のネームプレートに目を向けると「実習生」の文字。思わず口元が綻んだ。
「煙草にゃシール貼らんほうがえぇよぉ」
小首を傾げる女の子。何を云われているのか分からない様子。vincent.は微笑みながらレジを離れようとした。
「…済みません」
店主らしき年配の男が詫び、実習生の女の子に何事かを教えている。や、と云いながらコンビニを後にしたvincent.は、何故か微笑ましい気持ちでいっぱいになっていた。
サンキューシールが恥ずかしい訳ではない。
ただ、彼女は法律上、喫煙を許されていないのだろう。どのくらいの時間、そのサンキューシールの貼られた煙草をお客さんが持ち続けていなければならないか、そんなことは知らない。
もしくは、通り一辺倒に教えられたことを忠実に守っているのか、或いは缶コーヒーなどと一緒に買ったときに彼女はどうするのだろうか、或いは…
などと、いろいろな推測がvincent.の頭の中を縦横無尽に駆け巡った。
そして、気になったのは店を出たときに「ありがとうございました」の声が聞こえなかったことだ。
高々280円ごときで偉そうな講釈を垂れるつもりはないが「済みません」の前に「ありがとうございます」をキッチリ教えるべきやろぉ? などと感じた。
そして、そこに日本独自の「負の文化」を感じた。
いずれにしても「無知は幸福」とでも云おうか、知ったところで彼女の態勢に何らの影響を及ぼすものでもないが──
汚れを知らぬ純真無垢さや直向きな健気さに触れられたようで清々しい気持ちになった。
受話器の向こう側
受話器の向こう側にある
見えない表情に 後ろ髪を引かれつつ
「切」のボタンを押す
君のいない部屋に ひとりでいたとしても
君を感じることさえできたなら
俺は 決して ひとりなんかじゃない
そんな気がするよ
や せめて
そんな気でいさせてくれよ──
もどかしい…