掟神

新たなルールを書いた紙を、人知れずそっとテーブルの上に置いてゆく神がいる。
どんなに理不尽で不条理な内容であっても、それが絶対的な掟となり、もし破ればその者の身に様々な危険が及ぶという。

或る男のもとにそれが届いた。

「実際、参ったぜ…」
「何が?」

「おきてがみさ…」
「置き手紙? 何だよ。『探さないでください』ってか? そりゃ『全力で探してくれ』ってメタファーさ。お前も隅に置けねえな」

「茶化すなよ。そんなじゃねえよ…」
「じゃ何だよ。柄にもなく深刻な顔しやがって」

「掟神さ…」
「掟神? 何だよ、そっちなのか?」

「ああ…」
「マジか、そりゃツイてねえな…」

「実際、参ったぜ…」
「気の毒にな…」

「ちょっとお前に訊きたいんだが、アレか? 掟神てな俺らを監視でもしてるのか?」
「さぁな、神様のやることなんざ、俺らが考えたところで分かる筈ねえよ」

「それもそうだよな…」
「でも、祟りってのか? それは確からしいぜ」

「マジか…」
「ああ、俺が聞いた話じゃ掟に背いた奴は全身打撲で昏睡状態だとよ…」

「昏睡…」
「ああ、交通事故だそうだ。今も病院のベッドの上さ」

「掟は何て?」
「『上司を殴れ』と」

「そりゃまた理不尽な…」
「だろ? そいつはその上司のお気に入りでな。兎に角、かわいがって貰ってたんだよ」

「そうなのか…」
「そうだよ。憎たらしい上司だったらまだしも、あの人には足向けて寝られない、とまで云ってたんだぜ? そんな人を──まったく、何の因果だか…」

「だよな…」
「気の毒な話さ」

「誰なんだ? そいつは」
「植村さ。山岳部で一緒だったろ?」

「え? あいつが?」
「ああ。山岳部では俺も世話になった」

「ああ、俺も覚えてる。雪山で遭難しかけたとき…」
「そう。アイツがいなけりゃ、俺ら今こうして居られたかどうか…」

「ホントだな。あのとき、俺はお前にも助けられたよ…」
「やぁ、そりゃどうってことねえよ。最終的にはアイツの判断がなけりゃ、どの道みんな助かってなかったろうし」

「ま、そりゃそうだが…」
「何だよ、幼な馴染みじゃねえか。気にすんなよ」

「ん、まぁな…」
「で、お前には何て?」

「いやぁ、それが何てゆうか…」
「何だよ、焦らして感じ出したって仕方ねえだろ? お前まで危険な目に遭わす訳にゃいかねえよ。協力できることだったら何だってするぜ」

「いやぁ、それなんだが──」

男は上着の内ポケットから掟神が置いていった紙をおそるおそる取り出した。

『親友の女を寝取れ』

ひと波乱ありそうだ。

___ spelt by vincent.

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