新潮社
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nymphの羽を そっと撫でる
雨粒のような雫が 煌めいて浮遊する
心地好い 懐かしい微香が 鼻先を掠める
白い花びらが 音もなく水面に舞い降り
脈打つ波紋が 静かに拡がる
輪郭が滲む
世界が歪む
色彩が混じる
境界が溶ける
ぼんやりと 蜃気楼のように
ゆらゆらと 陽炎のように──
nymphの羽を そっと撫でる
気付かれないように 近づき
指先で そっと撫でる──
溢れ出す愛欲の洪水を
そっと絡め取るように──
何とか日常を掻い潜ってみせるよ。
賛美なりの言葉なんて陳腐なもので準えたりしないよ。
あなたはあなた。
それ以上でもそれ以下でもない。
ありがとう。必然の人よ。
過ぎたるは及ばざるが如し。
過不足なくが適当。
「例えば──」
そう云い掛けた男の唇に、細い人差し指が押し当てられた。