「やぁ、そこの君。ちょっとこっちへおいでよ。
『天使と妖精と銀狼』のお話を聞かせてあげよう」
天使と妖精の背中には翅があるんだ。
だから、自由に空を飛び廻れる。
でも、銀狼の背中には翅がない。
だから、切り立った崖で吼えるんだ。
銀狼の餌って知ってるかい?
銀狼はね。お腹が空くと、天使や妖精を食べてしまうんだ。
だから、天使や妖精は銀狼が来る前に逃げるのさ。
銀狼が飛べないことを知ってるから空にね。
空の上でケラケラ笑って、銀狼を眺めているんだよ。
天使と妖精って、ずるいけど賢いだろ?
だって、そりゃそうだよ。食べられたらおしまいだからね。
食べられないようにいつも注意してるのさ。
でもね。
中には翅を仕舞って降りてくる天使や妖精がいるんだよ。
不思議だろ?
お腹を空かせている銀狼が可哀想に見えるんだろうね。
弱っているときの銀狼ってのは優しいんだよ。
と云うより、元気がないだけかも知れないね。
お腹が空き過ぎて、自分が銀狼だってことも忘れてしまうくらいさ。
天使と妖精が眼の前にいるのに気付かないんだもの。
それにね。天使と妖精のお話なんかも黙って聞いてたりするんだ。
うんうん。それはそうだね、とか、
や、それはこうなんじゃないのか、とか、、
そのうち、一緒になって遊んだりもするのさ。
笑っちゃうだろ?
いつの間にかお友達の仲良しさんになってしまうのさ。
ときにはお父さん気取り。ときには、お兄さんかな?
さっさと食べてしまえば、いいのにね。
天使や妖精は、ひとしきり自分の話が終わると、
もう銀狼と遊ぶのに飽きてしまって、オウチに帰りたくなるんだ。
バイバイを云って翅を拡げるんだ。
そのときになって銀狼はやっと気付くのさ。
ああ、この子らは天使と妖精だったんだ、って。
天使と妖精の背中には翅があるんだ。
だから、自由に空を飛び廻れる。
でも、銀狼の背中には翅がない。
だから、切り立った崖で吼えるんだ。
「このお話どう思う? 天使と妖精はずるい? 銀狼は可哀想?」
「銀狼に教えてあげたい」
「そう。何を?」
「天使と妖精を餌にするのをやめたら、って」
「あはは。そうか。君は賢いね」
「それにあたし、天使や妖精なんて見たことないし…」
「ああ。それは滅多に現れたりしないからね」
「そうなの?」
「ああ。運のいい銀狼しか見られないんだよ」
「ふ〜ん。じゃ、ますますお腹が減ってしまうわね」
「うん。そうだね」
「そんなことより、どうしてこんなお話をあたしに?」
「ああ。それは君が妖精だからさ。や、天使かも知れないね」
「え!? あたしが!?」
「そうだよ。背中の翅に気付かない?」
「そんなもの… あ!?」
「ね? 君が天使や妖精を見なくても不思議じゃない」
「あたしったら…」
「自分のことがよく分からないのは恥ずかしいことでも何でもないんだ」
「今まで全然…」
「あはは。可愛いね」
「そう云うあなたは何者なの?」
「知りたい?」
「ええ」
「銀狼だよ──」
「──!?」
「そう… 今、あなたはお腹減ってる?」
「ああ。少しばかりね──」
「そう… あなたに教えてあげればいいのね?」
「何を──?」
「天使や妖精を餌にするのやめたら、って…」
「云っても多分利いてくれない」
「どうして……?」
「や、格別にうまいのさ」
「そう… じゃあ、あたしはそろそろ……」
「逃げるのかい?」
「帰ってやりたいこともあるし…」
「そう。それは残念」
「帰してくれるの…?」
「帰りたければご自由に」
「そう… じゃ、あたしは帰るわね…」
「空を飛んで?」
「ええ… あなたに捕まったら…」
「ふふ。これは何だと思う?」
「──!? それは、翅…? あたしの……?」
「ああ。飛べないように片方もいでおいた」
「そんな… なんてことを……」
「やぁ、さっきの話だって、君に聞かせあげただろう?」
「ええ… 聞いたわ……」
「教えてあげないでいきなりってのは…ねぇ?」
「……」
「可哀想だろ?」
「……」
「ま。結局は同じことだがね──」
「お願い! やめて!」
「同じ科白を二度ほど聞いたことがある」
「そのときは──?」
「やめてあげたよ」
「じゃ、今回も……?」
「銀狼は思い知ったのさ」
「何を……?」
「あのとき、喰い殺しておけば良かった、と──」
空気が硬直した。
次の瞬間、銀狼の牙が喉仏を抉った。
肉を食む音と、骨を砕く音が辺りを包む。
ひとしきり貪ると、柘榴色をした舌で舌舐めずりをした。
「何だこれは? 天使や妖精の味じゃないな…」
残骸の匂いを嗅いでみた。
「やぁ、嗅覚が衰えたか? まぁ、そのうち当たるだろう──」
そう呟くと虚空を見遣った。
「ああ。ひとつ、教えてあげるのを忘れていたよ」
残骸を一瞥。
「何故、銀狼が吼えるのか──
それは、ありがとうとごめんなさい、なのさ──」
銀狼の咆哮が谺した。
___ spelt by vincent.


























コメント (2)
タイトルからすると豪華キャスティング風だが、
この寓話に登場する銀狼は「荒野の銀狼」とは別の銀狼だろう。
荒野の銀狼は、これほど語らない。
それに、餌を欲さない。。(´∀`*)y-〜♪
まぁま、脳内愉悦でランデヴー☆
そんな感じで♪
前肢が変形したもので、風切り羽(飛羽)・雨覆(あまおお)い羽・小翼羽などから成る。
・はるかの沖より、目馴ぬ―の飛来つて〔出典:浮世草子・諸艶大鑑 1〕
・彼等二人は―の臣〔出典:浄瑠璃・用明天皇〕
・「外套の―を後ろに反(は)ねて」〈木下尚江・良人の自白〉
羽子板でこれをついて遊ぶ。はご。
「正月に―をつく」《季 新年》「大空に―の白妙とどまれり/虚子」
「プロペラの―」「扇風機の―」
人間を守護したりすると信じられるもの。
ユダヤ教・キリスト教・イスラム教などにみられる。エンゼル。
・「かかる事は、我が朝の―を待たせ給ふ所といへども」〈折たく柴の記・中〉
[類語]父
会話や座談がとぎれて、一座の者が黙り込むことをいうフランスのことわざ。
西洋の説話・伝説に多く登場する。フェアリー。
(名)スル
年が若くて死ぬこと。若死に。夭折(ようせつ)。
・将来を期待されながらも―した