「マスター。いつものをくれ」
「いつもの、ですね?」
「ああ。強気と弱気のミックス──『一喜一憂の美学』を」
「キツ目に作りますか?」
「ああ。固くしてくれ」
2006年11月 アーカイブ[13]
like a fire
「時折、真剣な眼差しを投げるのはお伺いを立てているのさ」
「黙ってちゃ分からないわ」
「お互いが知っている暗号はふたりだけのものさ」
「謎解きをしてるほど暇じゃないわ」
「割りとせっかちなんだな?」
「ストレートが一番よ」
「生憎、俺は氷を浮かべる」
「何故?」
「熱い情熱は稀釈してやるほうがいい」
「──」
「でないと、お互いに身が持たない」
「──」
「それに灼けた喉で弱音は吐けない」
「弱音はうんざりだわ」
「誰彼構わずって訳じゃない。こんな話は余所ではしない」
「恐いもの知らずじゃなかったかしら?」
「臆病風に吹かれることもある」
「あらそう」
「だから、真剣な眼差しを投げるのさ」
「ふふ、そう。何故、口許が緩んでるの?」
「緊張を解きほぐすおまじないさ──」
口当たりは sweet
舌の上で転がせば mellow
喉越しは like a fire...
mellow
「分かるかい? 僕の気持ちが」
「なぁに?」
「壊れそうなんだけど、壊れる訳にはいかない。こんな矛盾。今まで抱えたこともない」
「何が云いたいの?」
「や、きみにはそんな感じ分かるかなぁ、と思って」
「あたしは… 溢れそうなんだけど、こぼす訳にはいかないわ」
「そうか。同じだね」
「ん。同じだね──」
「つまり、僕はきみにメロメロってこと」
「あたしがあなたにメロメロなのよ?」
「負けず嫌いだね?」
「んもう。知らない」
- mel・low
-
- ━━ a.
- 熟した; 芳醇な; 肥沃な; 円熟した; 豊かで美しい ((音色など)); 一杯きげんの; 陽気な.
- ━━ v.
- 熟させる[熟す]; 円熟させる[する]; 豊かに美しくする[なる]; 陽気[ほろ酔いかげん]にする.
鼓動
脈打つ心臓の鼓動が聴こえる。
首から提げた大事な物を通じて。
生きている。
あらゆる一切の本末転倒した虚像の影。
それらにやられてしまうほど弱くはない。
現実と非現実の狭間で揺れ動く浮遊物体よ。
当て所なく彷徨う魑魅魍魎の類いよ。
元の場所へ還れ。
お前らの餌食ではない。散れ。
今、結界を張った。
安心しろ。闇は晴れる。
透明な血液
哀しいから涙が溢れるのではない。
心が切れて血が溢れているだけ。
涙が溢れるから哀しいのではない。
心が切れて血が溢れているだけ。
舞え。
美しく舞い散れ。
心の血飛沫──。
前世の記憶
「──哀しいわ」
「何故?」
「分からないわ。けれど、何故か涙が溢れて止まらない」
「それは哀しみじゃない」
「じゃあ一体?」
「心が切れて血が溢れているのさ」
「何故?」
「俺と出逢ってしまったからさ」
「──」
「激しさを察知してしまったんだろう。心は嘘をつかない」
「何故、出逢ってしまったの?」
「取り戻しただけさ」
「何を?」
「前世の記憶を紡いで自分の持ち物を」
「──」
「自分の持ち物は大事にするべきだ。きみはどう思う?」
大海原
無限に広がるキャパシティの大海原に
その身を投じ給え。
うまく泳ぐ必要はない。
溺れ給え。
溺れるほうが苦しいが、
無限なのだから、辿り着く先はない。
やがて、力尽き、魂の器がただの器に還る。
抜け殻の器を抱いて、
深海へと呑み込まれてゆく。
苦境からの解脱。
差し込む光がゆらゆらと揺らめく。
だが、それを見ることはできない。
ひんやりとした温かいものに包まれながら、
深淵の深淵に沈みゆく。
固い岩盤をも通り抜け、
やがて、烈火のようなコアに到達する。
蒼白い炎と紅蓮の炎のランデヴー。
理論や感情は消し飛ぶ。
無限に広がるキャパシティの大海原に
その身を──。
迷子
「僕、方向音痴なのかなぁ?」
「え? どうして?」
「や、笑われると思うから云えないよ」
「なぁに? 教えてよー」
「ずっと迷子になってた」
「そうなの?」
「きみに出会うのにこんなに時間が掛かるなんて… 許してくれる?」
想起
「我思う 故に 我在り」
と宣った先人があった。
僕は、
「我在り 故に 我思う」
だと感じた。
そして、
「我無し 故に 我在り」
の根幹に到達した。
[ Neo Japanesque | Collaboration Vol.02 #04 MYSELF ]
を想起した。