目から鱗 - 地獄の在処

「地獄に落ちろって云うじゃない?」
「うん」

「地獄って下にあるのかな?」
「んー、ま、地の底にあるイメージだよね」

「誰が決めたんだろ」
「そう云われればそうだけど…」

「僕はちょっと違うと思うんだよね」
「へぇ、どんな風に?」

「僕らは地球上で生を営んでいる訳でしょ?」
「まぁ、日常的にそんな風に捉えて生きてはいないけどね」

「落ちる=高低差がある。高い所から低い所へ。でないと『落ちる』という表現は通らない。だから、君は『地の底』なんて云ったんだよね?」
「まぁ、そうだね」

「僕は地球以外で生活したことはないから、他の場合はよく知らないんだけど」
「や、あらかたの人類がそうだと思うよ?」

「地の底のレベルってどれくらいなの?」
「レベル? や、レベルって云われてもなぁ。地の底は地の底だろうし…」

「例えば、日本を基準としたら、反対側はアルゼンチン辺りだそうだから、そこが地の底?」
「や、アルゼンチンの人からしたら、日本が地の底ってことになるから、そんなことにはならないか…」

「そうだよね? 僕らは地球というボール状の天体に張り付いて生きている訳だから、地の底って云ったら、その天体の中心部分を指す」
「なるほど… じゃ、そこが地獄?」

「星の中心に地獄があるんだとしたら──何だか絶望的じゃない?」
「確かに…」

「だから、僕はちょっと違うと思うんだよね」
「う〜ん… じゃ、君はどう思うの?」

「地球の外側。ま、宇宙空間だね」
「そこに地獄が?」

「うん。まぁ、1箇所に限定されず、地球以外の場所、というニュアンスかな」
「なるほど…」

「地球以外で知的生命体の確認はされていない」
「そうだね。胡散臭い情報はいっぱいあるけど…」

「だとすると、死の世界が地球を覆っている。地球以外には生が存在しない」
「ま、微生物の類いは確認されてるそうだけど、人類レベルまでには至ってないし…」

「一歩間違えたら、すぐそばに死の世界が拡がっている」
「そう考えると、地球っていうのは本当に奇跡の星なんだね」

「そうだね。僕らは既に天国にいるのさ」
「何と!」

「重力の恩恵を受けて、天国に張り付いて居られる」
「いやぁ、何だか夢見心地な気分だなぁ〜」

「『地獄に落ちろ』は『地獄に翔べ』だね?」
「うはは。逆に清々しいね。青春真っ盛り、みたいな」

「でしょ?」
「うん、面白い。何故、君はこんなことを?」

「発想の転換──だよ」


目から鱗が取れたように視界が晴れた。

___ spelt by vincent.