- う・い 【▽愛い】
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(形)感心だ。殊勝である。かわいい。
「─・い奴」「─・い若い者、出かした、出かした/浄瑠璃・本朝三国志」
〔殆ど連体形のみ。目下の者をほめるのに用いる〕
目下。。? ムゥ。。
はっっ!?
まいっか☆ ピョーン♪
切り立った崖と崖とを結ぶ1本のロープ。
渡り切った向こう側に何かある訳ではない。
「目的」「理由」は何もない。
「期待」「希望」も何もない。
ただ、そのロープを渡らねば、と云う厳然たる回避不能な現実があるだけ。
一番愛しい存在を抱えて、それを渡る。
突風に煽られ足元がぐらつく。
諸共、転落する可能性もある。
抱えている者を投げ出すことで助かるならば、自分だけ助かりたい、と云う「未練・執着・保身」もなく、
わたしを投げ出してあなたが助かるならば、わたしを投げ出して、と云う「直訴・懇願・挺身」もなく、
「落ちてしまうなら儘よ」と、お互いに何の「疑問」も「躊躇」も抱かないような…
否、誰に命じられることなく、能動的に、自らの意志で抱けないような、抱かせないような… そんな感覚──。
ギリギリの安心感──。
そんな感覚に見舞われる。
落ちてしまう可能性を十分知りつつも、落ちてしまうのも、また、この愛しい存在とならば、そして、どこか「落ちる筈はない」と云う「確信」を抱き…
大いなる矛盾を抱きつつ、その矛盾に気付きつつ、理解を飛び越え、感じる、心地好い絶望的な感覚……
ギリギリの安心感──。
ロマンティストは救われない。
救われないから抗わない。
否、救われないなら抗わない。
「潔」を以って、この安心感を受け入れ、全うする。
生の潰えるその瞬間まで──。
煙草を買いに外に出た。
トントンと階段を降りると、数人の庭師らが家の壁面を這うように茂った蔦に剪定鋏を入れていた。横目でちらりと見てから自販機へ向かう。
戻って来ると、入口附近でラフな格好の大家さんとスーツを着た男が図面を拡げて立ち話をしていた。
「こんにちは。あ… おはようございます」
大家さんが挨拶して来たので、おはようございます、と応えた。
「今日は剪定してるんですよ」
ああ、そうなんですか、と微笑み、階段を昇った。部屋に戻ると、おかえりなさい、と布団の中から姫の声。
「今、外で剪定してるよ」
「センテイ?」
「うん。蔦やら何やら伸び放題やしねぃ」
「え? 伐ってるの?」
「うん。大家さんが職人に指示してたよ」
しばし沈黙する姫。
「ん? どしたぁ?」
「や、トイレの窓の…」
トイレのルーパー窓に絡まった蔦のことを思い出した。
「ああ、絡まった蔦のこと?」
「うん… 伐られちゃうのかなぁ?」
「うん、そーだね。伐られちゃうね…」
「…そっかぁ」
姫の顔色が曇った。
「あたしは別に構わないのに…」
「や。でも、夏になるしねぃ。大家さんトコなんて虫わんさかおるんちゃうかなぁ?」
「可哀想…」
寝る、と云うと、姫は背中を向けて寝入ってしまった。
住居を管理する側である大家さんのベクトル。そこに居住する者のベクトル。そして、双方のベクトルの合致点・共通項として選ばれた物云わぬ植物──。
自然との調和と共存は難しいことなのかも知れない。