皇帝の懺悔

「余はこの世に生を授かった瞬間から既にこの世を統治するために存在するのだが、どうにも最近いかんせん芳しくない…」

狭い箱の中で皇帝が呟いた。

「何なりと懺悔なさい」

箱の奥から声だけが響く。

「懺悔? 余は悔いることなど微塵もない。何を申しておるのだ。余は皇帝であるぞ?」
「悔いることでわだかまりを解消できるものです。さぁ、懺悔なさい」

「はてさて、この者も余の言葉が理解できぬと見える。如何ように換言すべきか…」
「私の言葉があなたに理解されないように、終局、理解とはする必要がないことなのです。私はあなたの理解を求めません。さぁ、感じたままに懺悔なさい」

「ムゥ… このような無理解が罷り通るのか? しかし、余は皇帝である。如何に微細な反乱分子をも統治せねばならぬのだ」
「あなたの望みは望んだ時点で潰えるのです。さぁ、懺悔なさい」

「無理解の傲慢を受け止めよ、と。これは余に与えられたノルマであるか?」
「あなたのカルマです」

「ウム。そのように切り返すか… だが、どうして。それも一理あるな。なかなかに優秀である。余の充足感は満たされた」
「さぁ、懺悔なさい」

「ウム。そなたの言葉を借りれば、そなたの望みは望んだ時点で潰えるのだ。従って、そなたの希望には添う必要がない。満足した余はこの場を立ち去るだけなのだ」
「我が魂の命ずるままに」
「ウム。良い言葉だ。使わせてもらうぞ」

そう言い残すと、狭い箱から出て、その場を立ち去った。
心なしか鼻歌混じりの陽気さを覗かせた。


この世を統治する偉大なる皇帝の寛容さ。
未だ健在なり☆

___ spelt by vincent.