「どうしたんだ? 冴えねぇツラして」
「や、何となくな」
「何だよ。また切ないのか?」
「や、虚しい、が近いかな?」
「なぜ?」
「や。俺は、一体、幾つの言葉を知ってるんだろう、って」
「ほう」
「や、何となくな」
「お前の云う言葉ってな何だ? 全部知りたいのか、それとも必要なだけか?」
「ん? まぁ、言葉云うより語彙…ボキャブラリ云うのか? そんなもんだな」
「あぁ。それで?」
「全部か必要かで云ったら全部は無理だ。オツムの出来じゃない。地球上に幾つ言語があると思うんだ?」
「ふふ。それもそうだな」
「その二択からすると、必要ってことになるのか?」
「ムゥ… そうなるようだが。まだ何か云いたそうだな?」
「まぁな」
「そりゃ、一体、何だ?」
「フム……」
「必要って、何だ? 必ず持ってなきゃならんものなのか?」
「ムゥ… 難しいな」
「必ず持ってなきゃならん、じゃなくて持っていたほうが何かと便利なものだろうな、多分」
「ふぅ〜ん。便利だから必要なのか?」
「ま。邪魔になるものじゃない」
「ほう。邪魔にならないから必要だ、と」
「ま。邪魔になったら捨てればいい」
「それじゃ、必要の意味が変わらないか?」
「ウム、確かに… そうなると必要って、一体、何だ?」
「お前は自分でも分からんことで俺に諭して来たんだぜ?」
「そういうことになるな」
「俺の虚しい、が少しは伝わったかい?」
「ウム… 何となく、な」
「俺の結論はな。全部だろうが必要だろうが、言葉を幾つ知っていたところで、自分の本意・真意は相手に伝わらない、ってことなんだよ」
「ムゥ… 悩ましいな」
「自分自身、自分自身の本意・真意は分からんだろう?」
「確かに。分かってるようで一番分からんのかも知れない」
「『こんなはずじゃ』や『ホントはこうじゃないんだ』みたいなことは無きにしも非ずだ」
「そうだな。それは自分自身が自分自身の本意・真意を汲み取れていない証拠でもあるよな」
「だろ? 自身の制御は自身で行うべきだ。ただ、その肝心な部分でも覚束無い」
「フム──」
「そんな中で他を制御する…つまり、相手にこちらの真意・本意を伝える…ひいては、こちらの正論を呑ませる、なんてできるのか?」
「まぁ、シチュエーションありき、だな」
「そう。場の流れで、なし崩しにされる場合もある」
「ウム。テンションとかも関係するな」
「あぁ、そうだな。ただ、ひとりになったときや、もう一度振り返ったときに『あぁ、なんてことを……』みたいな──」
「ウム。多々あるな……」
「それが後悔って云うのか?」
「そうだな。そこで『たら・れば』なんかも浮上する。『あのとき、ああしてたら…』『あのとき、こうしてれば…』まぁま。可能性と云う希望に思いを寄せる儚い仮定だな」
「ふふ。お前も随分ひねくれてるなぁ」
「お? 俺の本意・真意が伝わったようだな。ふふ」
「何だかお前と話してちょっとスッキリしたよ」
「そうか? 俺は何となくモヤモヤしてるけどな」
「その理由は、お前自身が一番知ってるだろうさ」
「そうだな」
「何せ脳内会議だからな」
「間違いない──」
「ま。一服して、やること片付けてしまえよ。な?」
「あぁ、そうするよ。ツライ時間があるからこそ楽しい時間が心に滲みるんだ」
「まぁま、カッコつけてねぇで手前のシリは手前で叩いてやれよ」
「お前に云われたかねぇよ」
「ま。読んでるほうも疲れるだろうし、この辺でやめとこうや」
「しかし、お前もアホやなぁ」
「お前もな。ふふふ」
*リライト整形済み
後に続く『会話シリーズ』の原点とも云えるスペル