日常の切り出し - 負の文化

とあるコンビニでのひとコマ──

「セブンスター2個下さい」

レジで小銭を出しながらvincent.

「済みません。1個しかありません…」

煙草をカウンターに置き、レジの女の子。

「あぁ。じゃ、1個でえぇよぉ」
「このままでよろしいですか?」
「うん」

コンビニでの会計時は、大体、相手の顔を見ずに手元だけを見ていることが多い。

何を思ったかレジの女の子。袋なしでも店外持ち出しOKの目印「サンキューシール」を丁寧に煙草に貼り付けてくれた。

少し「?」な面持ちで女の子の顔を見ると、彼女もキョトンとしている。胸のネームプレートに目を向けると「実習生」の文字。思わず口元が綻んだ。

「煙草にゃシール貼らんほうがえぇよぉ」

小首を傾げる女の子。何を云われているのか分からない様子。vincent.は微笑みながらレジを離れようとした。

「…済みません」

店主らしき年配の男が詫び、実習生の女の子に何事かを教えている。や、と云いながらコンビニを後にしたvincent.は、何故か微笑ましい気持ちでいっぱいになっていた。


サンキューシールが恥ずかしい訳ではない。

ただ、彼女は法律上、喫煙を許されていないのだろう。どのくらいの時間、そのサンキューシールの貼られた煙草をお客さんが持ち続けていなければならないか、そんなことは知らない。

もしくは、通り一辺倒に教えられたことを忠実に守っているのか、或いは缶コーヒーなどと一緒に買ったときに彼女はどうするのだろうか、或いは…

などと、いろいろな推測がvincent.の頭の中を縦横無尽に駆け巡った。

そして、気になったのは店を出たときに「ありがとうございました」の声が聞こえなかったことだ。

高々280円ごときで偉そうな講釈を垂れるつもりはないが「済みません」の前に「ありがとうございます」をキッチリ教えるべきやろぉ? などと感じた。

そして、そこに日本独自の「負の文化」を感じた。


いずれにしても「無知は幸福」とでも云おうか、知ったところで彼女の態勢に何らの影響を及ぼすものでもないが──

汚れを知らぬ純真無垢さや直向きな健気さに触れられたようで清々しい気持ちになった。

日常には 少し注意すれば「ステキな何か」が溢れている。

ありがとう♪

___ spelt by vincent.