暗闇から水滴が滴り落ちる。
弛まず、一定のリズムで。
どんなに硬い岩盤でも穴を穿つ。
面積が狭ければ狭いほど、
耐性と云う過信に身を託せば託すほど、
穿たれた穴は亀裂の切欠となり、
やがて、堪らず大崩落を演じる。
幻想に縋り付く虚無を知る。
偶像を崇拝する愚劣を知る。
沈黙の水滴。
生命の根源である水ですら、
ときに凶器に変貌を遂げる。
水は魔性の源流。
猛り狂えば津波となり、
凍り付けば氷河と化す。
燃え盛れば灼熱となり、
やがて気化して大気と交わる。
大気と交わった水は暗闇と契約を交わし、
水滴となって地表に降り注ぐ。
堪え切れず、溢れ出すように…
沈黙の水滴。
降り頻る雨音が喝采にも似ているのは
誰かが嘲笑しているからかも知れない。
或いは、歓喜しているのかも知れない。
形骸化した哀れなオブジェクトが奮戦虚しく、真の虚無と真の愚劣を思い知る瞬間を──その阿鼻叫喚の刹那を愉しんでいるかのようだ。
それは、天使か、悪魔か。
いずれかであるのかは分からない。
目に見えない法則が、解き明かせない摂理が誰の許可も得ずに、理不尽に、不条理に、何の脈絡もなく整然と司っているだろうことを否めない。
雨が降り出すと、
傘も差さずに表へ飛び出す。
それは──
愚劣の根底を覆う頭蓋を穿ち、
未だに覚醒しない脳細胞に、
楔を刺しているのかも知れない。
それは自己愛でもあり、自虐でもある。
自虐でありながらも考え至るに平易な
身近な試練享受の姿でもある。
嗤え。
大いに嗤い給え。
あなたの支配下に僕は居ない。
日常と云う滝に打たれる。
我が魂の命ずるままに──。
長いお別れ
早川書房
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元祖ロング・グッドバイである。
あの1文を語らせるために
スーパーマン
マーロウのかっこよさ
村上春樹訳が出ているが清水俊二訳で十分代替え
誰が誰であろうが、
成り代わることは、
決してできない。
決して出来はしないが…
僕は君で、
君は僕なんだ。
矛盾を抱くとは、そう云うこと。
代替えの利かない魂と、
痩せこけた魂の器を携えて…
絶望的な心地好さの海を泳ぐ。
Hard liquor
中ジョッキ
黄金色の液体
白い飛沫が音もなく弾ける
ロック・グラス
琥珀色の液体
芳醇な馨りが馥郁と立つ
グラスを重ねる
幾杯も 幾杯も
それでも 潤わない
喉の渇きは癒えるが
心の渇きは癒えない
虚空に浮かぶ
見えない輪郭
慈しむように
指先で
丁寧に ゆっくりと
背中を丸めて紫煙を燻らす
瞼を閉じれば
煙が眼に滲みることはない
表裏一体と矛盾の必然
汚れを知らぬ者には真の浄化は有り得ない。
醜さを知らねば真の美しさには到達しない。
苦悩は必然。
厭なら降りれば良いだけ。
真の苦しみを知って、真の喜びを得られる。
表裏一体と矛盾の必然。
タフじゃなければ生きては行けない。
優しくなければ生きてる意味がない。
*脳内浮遊物を繋ぎ止めるものとして
饒舌
黙して語らず。
沈黙こそ最も雄弁かつ饒舌である。
深淵は到達した者のみ
触れ、感じることができる。
我が魂の命ずるままに──。
皇帝の苦悩は神のみぞ知る
某日、偉大なる皇帝は深く思い悩んでいた。
近年稀に見る絶不調に見舞われ、皇帝の思惑通りに統治することが困難を極めていたからだ。
彼は、この世に生を授かった瞬間刹那から、この世にある一切の万物を須らく統治すべし、と云う平民には到達し得ない重責を背負っている。
この絶不調が長引けば、万物の存続はおろか、皇帝自らの統治能力に疑問あり、と叩かれても致し方ない。
そのような事態を避けるべく、やはり、流石は偉大なる皇帝である。平民の不満なりに耳を傾けようと云う方策に至った。
これは保身の考えから端を発した方策ではない。万物を統治せねばならぬ皇帝の苦悩が、物語を綴る小生などには及びもつかぬほど高次元の問題であろうことは想像に難くない。
飽くまで、推測の域を出ていないが「慈愛」──この言葉が脳裏をよぎる。
無限に広がる大宇宙のような寛容さと深遠さとが彼を衝き動かしたに違いない。まさしく、感涙である。偉大なる皇帝に燃えるような情熱の真っ赤な薔薇を…☆
棚上げの美学
僕は、くすぐるのが好きだ。
某西武新宿線駅前付近にある居酒屋でのこと。僕は大抵ひとりでぶらりと立ち寄るのだが、ここのお店の方々には大変お世話になっている。
「あぁ〜vincent.さん来たぁ〜おかえりなさ〜い」
僕はフツーに「おかえりなさい」に弱い。自宅を一歩出たら、ハード・プロテクトが体躯を覆う。ちゃらんぽらんに気を抜いているように装ってはいるが、内面のスタンスの在り方が何処にあるのか。僕だけは欺けない。自分に嘘はつけない。
それが瞬殺で崩壊するのだ。眉が八の字になり口許が綻ぶ。
「vincent.さんはカウンター?」
「うん。ひとりやしねぃ」
じゃ、と云ってママンが席を立つ。そこですかさず僕がその席に坐る。
「いやぁ〜僕の為に椅子をあっためてくれたんですね? 美しい気遣いだなぁ〜流石、ママン♪」
と、さらりと云ってのける。自然と笑顔が向けられる。
僕は何もしていない。
僕は何もしていない。
ただ、ポテンシャルの扉を開けただけ。
鍵は、もともと君のものだったのさ。
ただ、それに今まで気付かなかっただけ。
うっかり、しまい込んで忘れていただけ。
その扉を開けてしまったら、
あとは、なるようになるさ。
や、なるようになるだけさ。
僕は何もしていない…☆


