暗闇から水滴が滴り落ちる。
弛まず、一定のリズムで。
どんなに硬い岩盤でも穴を穿つ。
面積が狭ければ狭いほど、
耐性と云う過信に身を託せば託すほど、
穿たれた穴は亀裂の切欠となり、
やがて、堪らず大崩落を演じる。
幻想に縋り付く虚無を知る。
偶像を崇拝する愚劣を知る。
沈黙の水滴。
生命の根源である水ですら、
ときに凶器に変貌を遂げる。
水は魔性の源流。
猛り狂えば津波となり、
凍り付けば氷河と化す。
燃え盛れば灼熱となり、
やがて気化して大気と交わる。
大気と交わった水は暗闇と契約を交わし、
水滴となって地表に降り注ぐ。
堪え切れず、溢れ出すように…
沈黙の水滴。
降り頻る雨音が喝采にも似ているのは
誰かが嘲笑しているからかも知れない。
或いは、歓喜しているのかも知れない。
形骸化した哀れなオブジェクトが奮戦虚しく、真の虚無と真の愚劣を思い知る瞬間を──その阿鼻叫喚の刹那を愉しんでいるかのようだ。
それは、天使か、悪魔か。
いずれかであるのかは分からない。
目に見えない法則が、解き明かせない摂理が誰の許可も得ずに、理不尽に、不条理に、何の脈絡もなく整然と司っているだろうことを否めない。
雨が降り出すと、
傘も差さずに表へ飛び出す。
それは──
愚劣の根底を覆う頭蓋を穿ち、
未だに覚醒しない脳細胞に、
楔を刺しているのかも知れない。
それは自己愛でもあり、自虐でもある。
自虐でありながらも考え至るに平易な
身近な試練享受の姿でもある。
嗤え。
大いに嗤い給え。
あなたの支配下に僕は居ない。
日常と云う滝に打たれる。
我が魂の命ずるままに──。