掟神

新たなルールを書いた紙を、人知れずそっとテーブルの上に置いてゆく神がいる。
どんなに理不尽で不条理な内容であっても、それが絶対的な掟となり、もし破ればその者の身に様々な危険が及ぶという。

或る男のもとにそれが届いた。

「実際、参ったぜ…」
「何が?」

「おきてがみさ…」
「置き手紙? 何だよ。『探さないでください』ってか? そりゃ『全力で探してくれ』ってメタファーさ。お前も隅に置けねえな」

「茶化すなよ。そんなじゃねえよ…」
「じゃ何だよ。柄にもなく深刻な顔しやがって」

「掟神さ…」
「掟神? 何だよ、そっちなのか?」

「ああ…」
「マジか、そりゃツイてねえな…」

「実際、参ったぜ…」
「気の毒にな…」

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終焉の正体

「“正解”って知ってる?」
「何についての?」

「や、純然たる正解だよ」
「何だ、そりゃ」

「正解てな、正しい答なんだろ?」
「ま、そうだな」

「てことは、それを目指さないと駄目だろ」
「駄目ってことはねえけど… ま、そのほうがいいよな」

「だったら、正解についてちゃんと知っておくべきじゃねえのか?」
「ま、そうだな」

「でな、俺はこんな風に思ってるんだ。正解ってのはな。そこに辿り着くと、実はすべてが終わってしまう、と」
「どうして?」

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他人の空似

「自分以外は皆他人」
「どうしたんだ? いきなり」

「お前はどう思う?」
「何が?」

「自分以外は皆他人」
「まぁ、物理的、道義的にはセパレートな訳だし、そうだと思うが何か引っ掛かるのか?」

「俺は嘘っぱちじゃねえのかと思うんだ」
「どうして?」

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自問自答の神経衰弱 - 或る角度からの側面

自分の胸に手ぇ当てて訊く必要はねえんだが、そうするとナンボか落ち着くぜ。
手間ぁ端折らず手続き踏むと、案外、実感沸いたりするもんさ。


誰かに責められてる訳でも咎められてる訳でもねえんだが、自分だけが知ってる“やましさ”とやらが、ちらほらと浮かんでくるのさ。

それらを一枚一枚拾っては並べてみるんだ。そして、しばらく眺めてから、また一枚一枚裏っ返してゆく。すると、思いの他、安心するのさ。不思議だろ?

自問てな、そうゆうこと。

でな。自答する必要もねえんだ。自分で裏っ返したんだ。表が何だったかは覚えてるだろ? 忘れちまってたら、また裏っ返せばいい。答えはそこにある。

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実際、厄介だぜ。

言い方なんてのは特にないが、語り方ってのは幾通りもある。

おざなりだろうが、ぞんざいだろうが、聞き遂げた者に響かなければ、何も言ってないのと同じこと。

刺さるフレーズてな音楽とよく似てる。
ロックが聴きたいときと、バラードが聴きたいときじゃあ気分が違うだろ?
奏でるように語り掛けるのさ、そいつのご機嫌伺いながら。

媚びてる訳じゃないんだぜ?
優しさってのはこちらの優位性の押し売りなのさ。
響かなければ煙たがれるだけ。

まぁ、何でも工夫が必要ってこった。

実際、厄介だぜ。

___ spelt by vincent.

支点

真ん中がブレると支えられなくなる。
どちらか一方に傾ぎ、動けなくなる。

心と体の比重。どちらか一方に傾いだ状態ではうまくない。
それは善と悪も同じこと。
シーソーを思い浮かべると理解に容易い。

対を成すもののすべては、どちらか一方に傾いだ状態では本質を表現し得ない。
それらは常に揺れ動き、そのもの足らしめる本質を象ろうとしている。

どちらか一方が色濃く反映されていると感じられるのは、飽くまで、客観視。
それを見る観察者の観点である、と云える。

自身は最後の最後まで揺れている。
主観視とは、最後の最後まで油断しているものなのだ。
故に、観察者の都合に合わせた反映を見せるのだ。


真ん中がブレると支えられなくなる。
どちらか一方に傾ぎ、動けなくなる。

いずれか一方に傾いだ状態が長引けば、それを見る観察者の興味を失う。
観察者の主観とは、動くものにだけ反応するのだ。

──と、そのような観点があることを、自身の主観に加えてみる。


支点が定まらないと、視点が定まらない。

___ spelt by vincent.

無意味

無意味なことに執着し、意味を持たせる。この行為こそが無意味である。

それは、せねばならない的確な理由を持たない。某かの理由がある時点で、無意味だとは云い難いからだ。

例えば、理由があるうちは極まっている状態とは程遠い。或いは、極まりを追わない求道など、それこそが無意味である。

表層の無意味さと真の無意味さには雲泥の格差がある。


研ぎ澄ませ。鋭利な刃物の如く。
追い求めろ。腹を空かせた餓鬼の如く──。


無意味なことに執着し、意味を持たせる。この行為こそが無意味である。

無意味なことに執着し、それを知り得る意味や理由など、いつしか何の意味も価値もないことを知り至るまで──。


研ぎ澄ませ。鋭利な刃物の如く。
追い求めろ。腹を空かせた餓鬼の如く──。


我が魂の命ずるままに──。

___ spelt by vincent.

前世の遺留品

例えば、かなりの困難を極めたとしても、いずれ必ず見つかる探し物ならば、元々、自分の持ち物だったと云えそうだが、同等の労力を費やしたとしても、尚一向に見つからないということは、多分、自分の持ち物ではないのだろう。

前世の遺留品。

あろう筈もなく、遺失物届けにも決して挙がって来ないような架空の忘れ物。
それを求め、当て所なく彷徨っている様子を「渇望」と呼ぶのかも知れない。


前世の記憶ほど当てにならないものはない。
どういう訳か、それだけはよく覚えている。

___ spelt by vincent.

正直者は馬鹿を見る

「『正直者は馬鹿を見る』って云うだろ?」
「ああ」

「お前はそれをどう思う?」
「どうって云われてもなぁ…」

「正直に云ってみろよ」
「まぁ、相手を疑ったりしないから騙されやすいってことじゃねえのか?」

「そんなもんかねぇ…」
「俺もよく分からねえけどな、大体、そんなとこじゃねえのか?」

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