他人の空似

「自分以外は皆他人」
「どうしたんだ? いきなり」

「お前はどう思う?」
「何が?」

「自分以外は皆他人」
「まぁ、物理的、道義的にはセパレートな訳だし、そうだと思うが何か引っ掛かるのか?」

「俺は嘘っぱちじゃねえのかと思うんだ」
「どうして?」

「おかしいじゃねえか、自分以外は皆他人なんだろ? てことは、お前は何なんだ?」
「何って… 俺は俺だよ、それ以上でもそれ以下でもない」

「だろ?」
「でも、お前にとっては他人だ。お前は俺じゃねえだろ?」

「俺も俺だよ、それ以上でもそれ以下でもない」
「や、そうじゃなくて…」

「何か間違ってるか?」
「間違っちゃねえけど…」

「だろ?」
「参ったな… どうも、いけねえや…」

「俺はな、こう思うんだ。世の中に他人なんていやしねえ、と」
「ほ〜ら、また、おかしなとこ入っちゃったよ…」

「俺は、ただ、俺が当たり前だと思ってることを云ってるだけだよ」
「誰がそんなこと真に受けると思ってんだ?」

「誰とは?」
「他人だよ!」

「お前は何なんだ?」
「俺は… って、なんで巻き戻すんだよ!」

「論点が違う」
「論点だぁ? 一体、何が違うってんだよ…」

「俺は愛を説いてるだけさ」
「うほぁっ!?」

「自分だとか他人だとか云って線を引くな、と」
「ほう… で?」

「皆が皆を自分のことのように… や、自分のこととして考えろ、と」
「はいはい…」

「そうすれば諍いはなくなる」
「はい、そらよーござんしたね、と」

「世界が平和でありますように──」
「とか何とか云って手ぇ合わせちゃってるけど…」

「何だよ、駄目か?」
「や、駄目じゃねえけどな。よく似た奴を知ってるよ」

「ほう。誰だよ、そいつは」
「さぁ、他人の空似だろうな」

___ spelt by vincent.