幸せの器


「1パック10個入りの卵ってあるじゃない?」
「ええ、あるけど?」

「それって、どう思う?」
「どうって?」

「や、幸せかなぁ、って」
「幸せ?」

「うん」
「幸せかどうかは分からないけれど、卵は結構使うから便利ね」

「そっか」
「てゆーか、出し抜けに何を言い出すのよ。どうかしたの?」

「別にどうもしないよ。いつも通りさ」
「そう、ならいいんだけど…」

「じゃ、4個入りとか… 1個しか入ってないのもあるじゃない?」
「ああ、あるわね。1個のはお高いわ」

「それって幸せ?」
「微妙ね… 1個のはお高いし、品質も良いのでしょうけれど…」

「卵を基準に考えるから微妙なんだろうね」
「?」

「1個しか入らないパックには1個あれば十分じゃないか」
「それはそうだけど…」

「欲張って10個入りパックで構えているから満たされないんじゃないかなぁ」
「…」

「幸せの器って、人それぞれだね」

___ spelt by vincent.

雑感

檻の中の虎と言われたことを想起した。
虎と言えば威勢はいいが、檻の中にいるということは、所詮は飼われているということだ。

俺といるのは正直、面倒なことなのだろう。

猛獣使い募集中。
嗚呼、虚しい。

___ spelt by vincent.

掃き溜めに鶴

さて、煙草吸いが隅に追いやられて早幾星霜いくせいそう
街角から切り取られた喫煙スペースはお世辞にも美しいとは云えず、煙草の空き箱や空き缶などが不様に散乱しており、大抵が吹き溜まりと化している。

閉鎖的で排他的なその空間では、皆一様に押し黙ったまま噴煙を撒き散らし、虚空を捉える視線の先には夢や希望と云った類いはすっかりなりを潜めている。

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男前

できない理由を並べるより、できる方法を考えるほうがかっこいい。

___ spelt by vincent.

掟神

新たなルールを書いた紙を、人知れずそっとテーブルの上に置いてゆく神がいる。
どんなに理不尽で不条理な内容であっても、それが絶対的な掟となり、もし破ればその者の身に様々な危険が及ぶという。

或る男のもとにそれが届いた。

「実際、参ったぜ…」
「何が?」

「おきてがみさ…」
「置き手紙? 何だよ。『探さないでください』ってか? そりゃ『全力で探してくれ』ってメタファーさ。お前も隅に置けねえな」

「茶化すなよ。そんなじゃねえよ…」
「じゃ何だよ。柄にもなく深刻な顔しやがって」

「掟神さ…」
「掟神? 何だよ、そっちなのか?」

「ああ…」
「マジか、そりゃツイてねえな…」

「実際、参ったぜ…」
「気の毒にな…」

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終焉の正体

「“正解”って知ってる?」
「何についての?」

「や、純然たる正解だよ」
「何だ、そりゃ」

「正解てな、正しい答なんだろ?」
「ま、そうだな」

「てことは、それを目指さないと駄目だろ」
「駄目ってことはねえけど… ま、そのほうがいいよな」

「だったら、正解についてちゃんと知っておくべきじゃねえのか?」
「ま、そうだな」

「でな、俺はこんな風に思ってるんだ。正解ってのはな。そこに辿り着くと、実はすべてが終わってしまう、と」
「どうして?」

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他人の空似

「自分以外は皆他人」
「どうしたんだ? いきなり」

「お前はどう思う?」
「何が?」

「自分以外は皆他人」
「まぁ、物理的、道義的にはセパレートな訳だし、そうだと思うが何か引っ掛かるのか?」

「俺は嘘っぱちじゃねえのかと思うんだ」
「どうして?」

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自問自答の神経衰弱 - 或る角度からの側面

自分の胸に手ぇ当てて訊く必要はねえんだが、そうするとナンボか落ち着くぜ。
手間ぁ端折らず手続き踏むと、案外、実感沸いたりするもんさ。


誰かに責められてる訳でも咎められてる訳でもねえんだが、自分だけが知ってる“やましさ”とやらが、ちらほらと浮かんでくるのさ。

それらを一枚一枚拾っては並べてみるんだ。そして、しばらく眺めてから、また一枚一枚裏っ返してゆく。すると、思いの他、安心するのさ。不思議だろ?

自問てな、そうゆうこと。

でな。自答する必要もねえんだ。自分で裏っ返したんだ。表が何だったかは覚えてるだろ? 忘れちまってたら、また裏っ返せばいい。答えはそこにある。

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