起き抜け、例によってふと辞書サイトを回遊しておったのだが、なかなか感じの良い日本語に遭遇した。
それほど仰々しいものではないが、手紙の冒頭に掲げる「冠」の類いだ。
「拝啓」「謹啓」などは、やや改まった感じ。社外文書などに用いられ、のちに時候の挨拶が附随する。
その挨拶部分を省略したものが「前略」。
そのまま「前文省略」の意だろう。
これは、手紙文化が廃れたとは云え、まだ目にする。
「冠省」
「かんしょう」と読むらしいが、かんしょうと云えば「干渉」が筆頭に変換候補として現れるだろう。
「冠を省く」と云う意味だろうが、なかなかに無冠の皇帝っぷりが面白い。
「略啓」
「りゃくけい」。これも先述の「前略」「冠省」と同義。
兎に角、これらのワードを冒頭に掲げると云うことは、余計な挨拶は抜きにして本題から入る、と云うことだ。
単刀直入。
本題のケーキカット。初めての共同作業。
そんな脳内サブワークはさておき…
これらの語で始まった手紙は「草々」「
「草々」辺りは目にする機会もあるだろう。「匆々」も音では同じ響きだ。だが「不一」──聞いたことがない。
「ふいち? 何やら予感が……」
そこでトリップ開始である。
- ふぐ 1 【不具】
-
- (名・形動)[文]ナリ
-
- 身体の一部に障害のあること。
- そろわないこと。そなわらないこと。また、そのさま。不備。
「物を必ず一具に調へんとするはつたなき者のする事なり。─なるこそよけれ/徒然 82」
手紙の末尾に書いて、気持ちを十分に述べ尽くしていない意を添える語。不一。
- ふしつ 0 1 【不▼悉】
- 手紙の末尾に記して、書きたいことを十分に尽くしていない意を表す語。不一。不尽。不宣。
- ふじん 0 【不尽】
-
- つきないこと。十分につくさないこと。
- 手紙の末尾に書いて、気持ちを十分に書きつくしていないという意を示す語。不悉(ふしつ)。不一。
- ふせん 0 【不宣】
- 手紙の末尾にしるし、書きたいことを十分に尽くしていないという意を表す語。不一。不尽。
これらのワードが弾き出された。
「不具」については(1)の定義が一般的だろう。負の要素を持つ言葉のひとつだ。
僕は「不悉」「不尽」に心動かされた。
不悉の「悉」は送り仮名を振れば「ことごと-く」と云うことだ。それが「不」で否定されている。
ことごとく何もなされていない、のである。申し訳ありません、が匂い立つ。
「不尽」。これも同様。──尽くし切れていない。
これらの言葉に込められた「独自の負の文化」を感じた。同時に、その「負」を押し売る「したたかな傲慢さ」も。
派生的に…
日常会話と云うのは、単なる「シグナル」でしかないと感じた。意思表示や意思疎通、つまり、コミュニケーションを繋ぐための合言葉。
日常的に紡がれる言葉やよく耳にする言葉などは、ほんの「表層部分」でしか過ぎない、と云うことを改めて感じた訳だ。
おざなりで良いとは考えてはいないが、本当に大した意味をなす言葉など… そうそう耳にする機会はない。
僕に「言葉に意味はない」と云わしめた源流であると感じる。
冠省 vin.spell ビジター様
目障りな乱筆乱文の類い、ご笑覧くださり感謝して居ります。
不快感を煽るのが本意ではなく、脳内エピキュリズムを共有したい、と云う自分本位な随意に基づく、いち行程作業に過ぎません。
呉々も、ご自愛下さいますよう宜しくお願い申し上げます。
as much as possible… Happy go Lucky!!
不尽
コメント (1)
筆舌に尽くし難い。
「怒り真骨頂」の様子を表す語だが、
その対極に「不尽」なりがあると仮定すれば、
「怒り」や、その他諸々の感情群の一切が、
ほぼ稀薄である、と云うことが垣間見える。
筆舌に尽くし難いほどの怒りならば、
そもそも何も語らない。語られる必要がない。
本当に怒ったら何も云わない。
こんな科白を吐いた自身に苦笑を浮かべる。
故に、僕は「真の怒り」に到達したことはない。
僕は無言でもお喋りだ。
僕以外、つまり、他人に対しては、
罵詈雑言すらも愛おしい。
そんな風に感じる。
故に、何を投げ掛けられても、一向構わない。
それは、言葉に意味はない、と感じるからだ。
例えば、それすら敢行しない、一向静寂を保つ──。
沈黙は最も雄弁且つ饒舌だが、
そもそも何も生まれない──。
生死の境界も覚束無い曖昧な確証に過ぎない。
そんなチェインループに巻き込まれる。
喉を引き裂かれても魂の咆哮を──。
「生きる」とは、そう云うこと。
我が魂の命ずるままに──。