「寂しがり屋だけどな…」
「あ? どうした、常に突然だな…」
「お前はそんなのあると思うか?」
「ある? いる、の間違いじゃねえのか?」
「屋なんだから店だろ? あるかないかで合ってるよ」
「そういうことね。ハイハイ、で?」
「あると思うか?」
「思うも何も、なけりゃそんな言葉ハナから要らねえだろ?」
「遣わない言葉なんざ掃いて捨てるほどある」
「例えば?」
「漢和辞典の最後のほう、やたらと画数の多い字があるだろ?」
「ああ、あるな」
「ありゃ、誰がどんなときに言葉として遣うんだ?」
「確かに… あんな字は辞書以外で見たことねえな…」
「そうだろ? お前の持論に根拠はない」
「かも知れねえな…」
「で、どう思う? 寂しがり屋」
「んー、あるんじゃねえのか? そういう言葉は聞いたことあるしな。こっちも何となくどういうことだか分かってるつもりだし」
「どういうことなんだ?」
「何だ? 知らねえのか?」
「知ってりゃ訊かねえだろ」
「まぁ、そうだな。寂しがり屋ってのは… その、なんだ…」
「何なんだ?」
「お前みたいな奴のことだろ?」
「どういうことだ? さっぱり分からん」
「分からん?」
「ああ、俺はそんな店、経営してない」
「…と、店か。まぁ、ややこしいな…」
「俺にも分かるように説明してくれよ」
「寂しがり屋に寂しがり屋の何たるかを説明するのも釈迦に説法的で気が引けるな…」
「や、遠慮せず頼むよ」
「そう来るか… いやはや、何とも…」
「仮に、俺が寂しがり屋だとして、その存在を誰が証明するんだ?」
「証明? また、えらく仰々しく出たな…」
「寂しがり屋ってのは、誰からも相手されなくて寂しがってるってことだろ?」
「何だよ、知ってんじゃねえかよ… 担いでんのか?」
「担ぐも何も、そんなこたあ誰だって知ってるよ」
「お前、ふざけてんのか?」
「ふざけてるように見えるか?」
「んー、調子っ外れだが、ふざけちゃいねえな、何とも厄介なことに…」
「大真面目だからな、俺は」
「ああ、馬鹿が付くほど真面目だな」
「何、簡単なことさ。俺を使って、俺が寂しがり屋だってことを証明してみせればいいんだよ」
「めんどくせえな…」
「じゃ、俺の推論を聞くか?」
「ああ、面倒だが聞いてやる」
「寂しがり屋なんざやっても儲からんから誰もやりたがらねえと思うんだよ」
「ほう。何故、儲からないと?」
「商売繁盛してたら看板に偽りありになっちまう」
「!? …と、そういうことね。確かに、人がわんさと集まってちゃ寂しがりも何もあったもんじゃねえな」
「だろ? だから、俺は寂しがり屋なんてねえと思うんだよ」
「や、そうとは限らねえぜ?」
「どういうことだ?」
「どんなに大勢に囲まれていようと孤独を感じることはある」
「随分、センチメンタルだな」
「お前の寂しがり屋を表現したまでだ」
「俺の?」
「そう。こうして俺が相手してやってても心ここにあらず、だ」
「そんなことはない。質問する側がそれじゃ無礼だろ」
「お前の心の声はそうは云ってない」
「お前、ひょっとして…」
「何だ?」
「BLか?」
「君は寂しがり屋を本格的に稼働しなさい」
*2016.10.03 草稿