昨夜、近所のダーツバーに足を運んだ。
12時前の入店は初めてだった。12時までが前半。12時以降朝5時までが後半。俺は後半専門。しかも、5時過ぎの入店が殆どだ。
「いらっしゃいま… あれ? 兄貴、今日は早いスねぇ」
俺はこの店では「兄貴」と呼ばれている。マスターはカズ。俺より年下だが、なかなか礼儀正しい。
「や、家でTVみながら飲んでたんやけどなぁ」
いつものカウンター席に腰を降ろした。
「何だかひとりで飲んでても、つまらんしなぁ」
「兄貴。寂しがり屋だから?(笑)」
「や、オイラ、パトロールしてるだけだよ。いろいろな(笑)」
黒ビールのギネスを頼んだ。
「あ。兄貴、この人サミー」
先に来ていた男をカズから紹介された。
「どうも、はじめましてー」
「おう。よろしく♪」
坊主頭にヒゲ面のなかなか体格のいい男だ。ヒップホップ系ゆーのだろうか。黒縁メガネがアバンギャルドでオシャレ。
カウンター席でカズを交えて3人。あーでもないこーでもないを愉しんだ。
ひとり、カウンター席で会話に参加せず笑っている男がいた。
「おう。自分も混ざれや。そんな隅っこでいじけるなよ。しょっぱいのぉー(笑)」
男はカウンター席だというのに膝を抱えて坐っていた。
「兄貴。覚えてないんだもんなぁ…」
俺は眉をひそめた。
「ん? どっかで会ったっけか?」
煙草を灰皿に置く。
「この店で何度も会ってますよぉ」
俺はゲラゲラ笑った。
「マジでか!? ワリイ、ワリイ。オイラ、女の子しか覚えてないや(笑)」
「ショックだなぁ…」
「まぁま、カタイことゆーなよ。ま、飲めや。な?」
男はゲンちゃん。実は店に入ったとき、どっかで見掛けた顔だな、とは思っていた。だいたい野郎には、いつもこんな感じ(笑)
遅番の店員が店に来た。
「あ、兄貴。おはようございます」
「おう。おはよー。自分誰やったっけ?」
「え? しょういちですよぉ。やだなぁ」
「おう、そやった。しょうちゃん! 一緒飲もうやん☆」
カズ、しょうちゃん、サミー、ゲンちゃん、俺。野郎ばかりで、むさ苦しく弾けた。
「ゲンちゃん。そーいや神楽ちゃん、今日は来ないの?」
相変わらずカウンターの隅っこで膝を抱えたままのゲンちゃん。
「なんだよ。呼べばいーぢゃんよぉ」
「さっきケータイしたんですけど、今、渋谷だって」
「兄貴もいるよ、ゆーてみぃ。すっ飛んで来るで?(笑)」
「それはそれで複雑だなぁ…」
「まぁま、ゲンちゃんのアイドル、横取りしたりしねーよ(笑)」
「ぢゃ、掛けてみますぅ」
しばらくして神楽ちゃん登場☆ やるなぁー。流石、俺様(笑)
「あぁー。兄貴ィー。ホントにいたぁー」
「オーイエー。ゲンちゃんいじけ虫やったでぇ☆」
「神楽はぁ、みんなのアイドルだよぉ♪」
「だってよ、ゲンちゃん! たまらんのぉー ゲラゲラー♪」
掃き溜めに鶴。華が添えられると、それだけで色めき立つ。5:1の熾烈(?)なトークバトルが展開され夜は更けてゆく。
「兄弟。そーいや、あの娘…誰やったっけか? オイラがこないだ来たときにいた女の子」
多分、今日来店した目的はここにあったと思われる。
「ああ。キャサリンですかぁ?」
キャ…キャサリンんん??? そんなんゆーとったかぁ???
「そ…そー。そのキャサリン! あれから店顔出したぁ?」
動揺しながらも平静を装って。
「やぁ。あれから来ないですねぇ、全然」
「あっそぉー」
「兄貴。喰っちゃったんですかぁ?(笑)」
悪戯っぽい少年のような眼差しで俺を覗き込む。
「アホか… そんなんしねぇーよぉ」
「やぁ、ものすごいそーゆー雰囲気でしたよぉ?(笑)」
なおも詰め寄るカズ。正直、俺は何を話してたのかも記憶がない。
「マジだぁ!? オイラ、どーゆー感じやったん?」
「や、兄貴の『ベクトル』バリバリでしたよぉー(笑)」
「お! やるなぁー。オイラ語録、パクリよったぁー(笑)」
みんなでゲラゲラ笑った。
しばらく神楽ちゃんやらしょうちゃんやらをからかって遊んだ。だいたい3時頃に店を出た。
「カズぅ。またなぁ」
「兄貴。おやすみなさーい」
「おう」
店のドアを開けたとき、ふと立ち止まった。
「おい。カズぅ」
俺のグラスを下げながら、
「なんスかぁ?」
俺は顎髭の辺りに手をやりながら、
「キャサリン来たら兄貴が会いたがってたゆーといてなぁ」
カズが満面の笑顔で、
「ハイ! 伝えときます☆」
俺は苦笑を浮かべながら店のドアを閉めた。
なーに色気づいてんだ、あのボンクラは… などと思いながら、鼻歌交じりで家路に着いた。