10月7日、3連休の中日。
ひとしきり脳内会議も議題が嗄れて来た頃、21:06、ケータイに着信。
液晶には、と或る女の子の名前。
静かに通話ボタンを押す。
「毎度。vincent.」
しばし、ブレス。
「ああ、vin.ちゃん、今、何してんのー?」
「…て、随分、間ぁ開けたね」
「今、呑み込んでたー」
「そか。なぁに?」
「今から阿佐ヶ谷来ないー?」
コンマ数秒、プラズマ・ロダンタイム。
「や、明日朝6時起きやねん…」
「なんだーそっかぁ…」
結構、アルコールで上機嫌の様子。
眉を八の字にする vincent.
「それに手持ちも少ないねん…」
「えー、そんなのこないだ奢ってもらったし、いいよー」
すこぶるいい女だ。
誘ったほうが出す。──この辺りの義理人情要素を解釈するのに無駄な時間を費やさないようだ。
だが、甘える訳にはいかない。
「やぁ、そーだったっけ? 忘れてたよ」
「実ママンのお店なのー。vin.ちゃん、来てよー」
悩ましい…w
「分かった。電車賃くらいしかないねん。よろしくなー」
「うん。終電で帰ればいーじゃん。電車賃くらい出すわよー」
「分かった。ちょと待っててねー スキップで行くよ」
「うん。待ってるー」
こんなやり取りでおデーツの約束完了。
あとは、道中、イメージトレーニングをするだけだ。
『多分、ひとりじゃないだろう。男の子? 女の子? や、女の子だろうな。ウム…では、こーしてあーして…』
ひとりテンパイを演じさせたら右に出るものは居ないw
ほどなく、東中野で乗り継ぎ、阿佐ヶ谷駅に降り立った。線路沿いに真っ直ぐと云うことだから迷子にもなるまい。
駅前では、顔面白塗り和服出で立ちのふたりが大道芸を披露していた。その様子をビデオに収める者やケータイに収める者。群がる群像を尻目に靴音を響かせた。
道のどんづまりに差し掛かった頃、前後の補助カゴに女の子を乗せたお母さんが曲がり角で突然、転倒した。スコールのように泣き出す女の子ら。
僕はケータイで連絡しようとした左手を収め、足早に駆け寄った。
何も云わずに自転車を抱え起こす。侘びるお母さん。前の補助カゴの女の子は泣きながらも僕の顔をまじまじと見ていた。後ろの女の子はお母さんが抱擁。頭を懸命に撫でていた。
その様子を見たひとりの青年も足を止め、こちらに向かってきた。なかなか見所のある好青年だ。目配せで合図する。
僕は、ひとしきり前の女の子の頭を撫でてやった。
「頭、ぶっかった?」
首を振る。
「そか」
お母さんが構ってくれないので、女の子の泣き声はより一層高まる。僕は苦笑を浮かべながらお母さんに合図した。
「その岩に引っ掛かったんですか?」
「そうなんです。いきなり巻き込まれちゃって…」
「難儀な岩だ。こんなことになるとは思ってもなかったでしょうね」
そんな会話もそこそこ。ケータイが鳴った。左耳にケータイを押し当てる。
「どこ、いんのー?」
「ああ。もう阿佐ヶ谷おるでー」
「何してんのー?」
「人助けや」
「えー!? どーしたの!?」
かくがくしかじか。
「女の子、泣き止んだらすぐ行くよー」
「大丈夫なの? 怪我は?」
「大丈夫だと思うよ。多分、びっくりしただけでしょう」
「あたしもびっくりした…」
そんなこんなでスコールがやむと、足早にお店を目指した。レディを待たせるのは侍として失格だ。
本当のどんづまり…先程のは正確には丁字路…まで来ると、僕を呼び出した女の子がケラケラ笑いながら立っていた。
「何? 何が可笑しいの?」
「や、自分で呼んどいてアレだけど… なんか綾瀬以外で会うのって不思議だな、と思って…」
「うはは。でもそんなの関係ねえ」
ファーストコンタクトの会話もそこそこ、早速、店内に足を踏み入れた。
4人掛けのテーブル席が4席。カウンターが5〜6席。それほど暗くない照明で調光された、所謂「洋風居酒屋」と云った店構え。悪くない。
「はい。vin.ちゃんはそこー」
奥のテーブル席に案内された。左隣りは空席だったが荷物が置いてあった。予想通り、女の子だろう。
「や、待たせたね」
「vin.ちゃん、お粧ししてるのかしらって思ったー」
「うはは。どこをどーお粧しすんねん。ナチュラルメイクや」
「うふふ」
おしぼりをもらってビールを頼んだ。僕の左隣りを目配せしながら、
「お友達?」
と訊いた。
「そう。お友達。あたしとは友達でママとはマブダチ」
「そか。おっかねえな…」
「なんで?」
「や、下手なことゆーたらやられちまう…」
「そんなことないよー 大丈夫だよー」
そんなやりとりの最中、お友達登場。トイレからの帰りだったようだ。
「はじめまして。vincent. と申します」
お友達は目を白黒させていた。
「え? ああ… よく分からないけど…」
「はい。でも vincent. なんです」
訝しげな表情のまま、お友達着席。僕は例によって満面の vincent. スマイル。僕を誘った女の子…仮に「iちゃん」とする…が場を取りなそうとした。
「や、さっきもゆったけど、あたしは『i』で、vin.ちゃんは vincent. なの」
「そーなの?」
「うん。あたしは mixi だけだけど、vin.ちゃんは他所でも vincent. なの」
「ふ〜ん…よく分からないけど、そーなのね?」
「うん。そー」
結局、よく分からない様子だった。
めげずに(?)に僕はいつもの調子…ま、vincent.ワールドですな?w…で、その場を制圧した。(´∀`*)
会話の内容としてはアルコールの勢いも手伝っている所為もあり、断絶的なのだが、兎にも角にも、楽しい宴であったのは間違いない。僕にとってはアドリブさえ台本通りだ。キャスティングが違っても汎用的なシナリオを幾つも内蔵している。
「vincent.虎の巻秘伝書 - 酒席とんち術」
これは、どう贔屓目に見ても値が付けられない。何故なら、需要がないからだ(≧∀≦)ウヒャヒャ♪
その秘伝書の在処は、前人未到の地、遥か地平線の彼方にある、断崖絶壁を抱いた辺境の地を越え…ほにゃらら…
さておき…
この店は iちゃんの実ママンと実パパンとの共同経営だ。ママンとは挨拶めいたシーンがあったが、パパンとはなかった。
傍目的にどう見ても同じ遺伝子を継承しているようには見受けられない。頑固一徹の人間国宝、或いは、剛胆一直線の陶芸家。そんな風体を醸し出していた。
僕は、iちゃんの生い立ちなどの詳細は知らない。興味がない訳ではなく、訊く必要がない、と感じたからだ。
彼女は二十歳になる前には今と違う苗字だったそうだ。今の苗字は奇しくも僕の最近の彼女と同姓。
一瞬、そのことをセンチメンタル風要素を織り交ぜ、彼女に告げたとき、彼女は何も訊かずに次のように云った。
「じゃ、vin.ちゃんには前の『小島』で…」
男の脆くて儚いハードボイルドを知っているようだ。掌で弄ばれてる感が何故か心地好い。
センチメンタル・プロテクトとは、一流のダンディズムの理想ではあるのだが、生憎、僕にはダンディズムが稀薄だ。
慮る──。
その配慮ベクトルが僕の鼻の奥を酸っぱくさせる。
ふたつの苗字。
女の子にとっては旧姓と云う概念が法律上あるので、殊更にピックアップされない要素だとも云える。
だが、苗字が変わるには、それ相応の「背景」があったりする。自身でコントロール可能なものそうでないもの… 一様に括り切れるものではない。
求道心、探究心の対として「求めない欲求」と云うものがある。
すべてを知ることは悦楽の種子であるが、
すべてを知ることは悲哀の元凶でもある。
推して知るべし──。
答えのない問題を抱え、それを解明しようと足掻く。そして、懸命、解き明かしたときに「落胆」を知る。
分からないことは分からないままで良い。
分からないことがあると云うことを分かれば良い。
故に、おもろければ何でもえーねん、と嘯く。
我が魂の命ずるままに──。
コメント (1)
ま。例によって終電は逃したがな。。(´∀`*)
歩きで帰りましたよ。。☆ 徒歩でとほほ(え
おもろければ何でもえーねん☆(≧∀≦)ウヒャヒャ♪