不器用

「孤独の人…」

或るオカマちゃんにそう云われた。

「vincent.は孤高じゃなくて孤独の人…」

思わず苦笑した。

「自分で自分を苦境に追い込んで、そして、自分で解決する人。それを最初から分かっててやってる人。そこまで割り切ってできる人って、そうそういるものじゃないわ」

眉が八の字になる。

「鉄の意思──vincent.には、そんなものを感じるわ」
「や、そんなカッコイイもんじゃないですよ。オイラの鉄は結構溶け易い」
「自分の弱い部分も全部受け入れてる。そして、それを強さに変えられる人だわ」

ゆっくりと煙を吸い込む。バツが悪い訳ではなく、そのオカマちゃんを真っ直ぐ見られない。琥珀色の液体が入ったグラスに口を傾け、ゆっくりと喉を焦がす。

「今、わたしの中でvincent.がマイブームなの」
「どうして?」
「行く末が楽しみなの。わたしにはどうなるか分かってるけど」

再び苦笑した。

彼女(?)は占い師でもあり、本名と生年月日が分かれば、その人を占えると云う。その人の未来なりが見えると云う。ただ、生憎、彼女は俺の本名を知らない。

「本名を知らなくても、vincent.で通っているなら十分に呪えるわ」

彼女は嬉々として追い込んでくる。呪うんか!? オイラ、きみに何かしたかい!?
あ、何もしてないから呪われるんか…苦笑

「vincent.の望む未来は有り得ないわ」
「ああ、それは分かってるよ」
「ただ、もう少しで星が変わる」
「星が? それはいつ?」
「今は云えないわ。それを云ったら楽しみが減るもの」
「あっそぉ☆」

頭の良い人との会話は癒される。

常日頃から感じていたことだが、所謂、オカマと呼ばれる人は感性が鋭い。それを独自の科白と世界観で繰り出してくる。

現実の中にある非現実な空間。

それらを演出する能力が非常に長けていると感じる。そして、そこから学ぶことも多い。逆に、そこからしか学ぶことができないことも多い。

氷をカラカラと指で転がしながら、紫の煙が立ち上る様子を眺めた。

「vincent.は、どうして答えを見つけるのやめちゃったの?」

薄笑いを浮かべながら彼女を見遣った。

「俺はやめてないよ。そして、見つけた。答えの方が俺から離れたんだよ…」

彼女が真っ直ぐに見つめてくる。
俺は視線を外した。

「孤独の人…」
「孤独に愛されているんだよ…」

琥珀色の液体の残りを飲み干し、お替わりを頼んだ。


左腕に走った渓谷を見るたびに想い出す。
あのとき、俺の名を刻ませなくて本当に良かった、と。

ただ、本当にやりたかったら俺が止めても利かなかっただろう。そのときに気付くべきだった。覚悟の度合いを。背負うと云うことの重責を──。

否、どこかで気付いていた。
ただ、そのときは目と耳を塞いでいただけだ。俺は俺のやり方で包んでやりたかっただけだ。

命短し恋せよ乙女。
存分に謳歌し給え。

最大の感謝を添えて──。


コメント

2006年02月12日20:32 vincent.

俺が望む未来なんてハナから有り得ない。
俺が望むものはこの世にはないんだ。

ないものだと云うことは最初から分かってる。ただ、ないからって諦める訳にはいかないんだ。

目に映るものなんて大概が幻。すべて蜃気楼。ただ、それがあると思い込んでる激しい勘違いが人を死ぬまで生かし続ける原動力。

俺には、そう思えてならない。

___ spelt by vincent.