「女の行動に理由なんてないの。男は理由を求めるから恋を失うのよ」
「ほう」
「そして、傷心に酔うの」
「アルコール無しで酔えるなら安上がりだな」
「解り合えるなんて有り得ないわ、永遠に。どこまで行っても擦れ違い」
「理解は要らない。理由もね。接点を求めなければ、ただ平行線を辿るだけさ」
「見てるものが違うのね」
「見てるもの? 自分に何が見えてるのか、それすら見えんよ」
「やはり傷心に酔ってるようね」
「愛しい追憶に酔い痴れてるだけさ」
「可哀想な生き物」
「ああ、だから背中で泣くのさ」
「銀色の狼──」
「?」
「銀色の狼が切り立った崖で吼えてるわ」
「や。大人しいものさ」
「──」
「月に向かって吼えても答えなど何処にもない」
「──」
「最初から何もないんだよ、何もね──」
男は咥えた煙草に火を点けた。
女は静かな眼差しで煙を追う。