「どうしてそんなに飲むの?」
「忘れられないことが多いからさ」
「自分の身体をいじめて楽しいの?」
「楽しかったら踊り出してるさ」
「可哀想な人──」
「聞き飽きた科白だな」
「わたしでよければ何でも話して」
「君じゃ何も埋まらないさ」
「見ていられないわ」
「チケット代返せばいいのか?」
「何故、そんなに構えるの?」
「それでも、やられるときはやられる」
「可哀想な人──」
「二度目だぜ?」
「わたしじゃ役不足?」
「役不足だって? とんでもない」
「じゃ──」
「俺には勿体ないくらいの上玉さ」
「遠慮することないのよ?」
「してたら君の隣りには居ない」
「怖がらなくてもいいのよ?」
「怖がる? 俺は怖いもの知らずさ」
「いえ。濡れ鼠のようだわ」
「せめて、水も滴る何とやらにしてくれよ」
「痩せた子供のようだわ」
「おつむの出来はその程度さ」
「素直になって」
「俺の素直さは危険なんだ」
「どうして?」
「焼き焦してしまう」
「いいわよ。あなたが望むなら」
「フフ。俺は何も望まない」
「──」
「君は君の望みを叶えるべきだ」
「わたしの望み?」
「ああ。そうだ」
「わたしの望みは──」
「何だ?」
「あなたよ──」
「ほう。面白いことも云えるんだな」
「茶化さないで」
「照れてるだけさ」
「フフ。可愛い人──」
「可愛いも可哀想も同じことさ」
「じゃあ、いいのね?」
「君の望みは分かったが神様を恨むんだな」
「恨むだなんて。いつも、感謝してるわ」
「敬虔な何とやらだな」
「そうよ。願いは叶うのよ」
「そう願いたいね──」
「何故、そんなことを云うの?」
「君の望みは叶わないからさ」
「どうして?」
「俺には大事な人が居る」
「大事な人?」
「ああ」
「わたしよりいい女?」
「比べたりしないさ」
「じゃあ、どうして?」
「忘れたけど覚えているのさ」
「神様って残酷ね」
「ああ。だから、恨め、と」
「──わたしも飲んでいいかしら?」
「ああ。望みは叶えるべきだ」
女は愁いを帯びた眼差しを男に向けた。 艶やかな唇に透明な液体が吸い込まれていった。
男は愁いの視線を感じながら紫煙を燻らせ、 ボトル棚の向こうで微笑む妖精に微笑み返した。
『忘れたいけど覚えているのさ──』
神様は誰の云うことも利かない。