サルスベリの葉が夜風にそよいでいた

大き目のバッグを担いで近所の銭湯へ。

徹夜明けの体躯をひと通り濯い清めると、バブルジェットの湯船へ身を沈める。ゆっくりと眼を瞑じ、ほうと吐息を洩らした。

滴る雫をバスタオルで拭い、ゆらゆらと湯気の立ち上る体躯を新しい衣服で覆い包んだ。

年季の入った茶色い合成皮革ソファに腰を降ろす。

湯上がりの一服と行きたいところだったが、6月より全面禁煙。しばらく張り紙を眺めたのち、自販機でコーヒー牛乳を。

大画面に映し出された日本対オーストラリアのサッカー中継。ちょうど、前半が終わったところで得点シーンのダイジェスト。何とも腑抜けた放物線がスローモーションで。

コーヒー牛乳を飲み干すと、空瓶をゴミ箱に捨てた。水槽の中で熱帯魚と共に遊泳するスッポンを横目に、隣にあるコインランドリーへ向かう。

日常を掻い潜った衣服を洗濯槽へ放り、上から洗剤をまぶした。洗濯槽の旋回を見届けると蓋を閉め、セブンスターを1本咥えた。

吸い殻入れを取り囲むように陣取った、昔のお嬢さん方を避けるように小雨がパラつく夜空に煙を吐いた。煙がしっとりと揺れる。

乾燥機に掛けている間、置いてある雑誌を斜め読み。しばらくの間、活字が角膜を刺激する。

乾いた衣服をバッグに詰め、ロイヤルホストへ。

4人掛けの喫煙席をひとりで占有すると、メニューをパラパラと眺めながら「何食べたい?」と自問。

顎髭を撫でる。

生ビールの中ジョッキとハヤシライス。煙草に火を点け、運ばれて来るのを待った。

ビールが運ばれて来たときにスピードくじを引かされた。スクラッチをコインで削ると「Wチャンス」の文字。

片眉を上げた。

ハヤシライスを啄みながら辺りを眺める。対面に若い男女のカップル。歓談中。左側に通りに面した窓際の席で参考書を拡げ、ヘッドフォンをしたまま格闘している学生ひとり。

眼を伏し、ジョッキに接吻けた。

食後の一服を燻らしていると、カップルのノイズとヘッドフォンを片方だけ外した携帯電話越しのハングル語。

耳障りの良いオアシスを拾おうとしたが、インストゥルメンタルのBGMがやけに白々しい。

煙草を灰皿で揉み消すと、レジへ向かった。

店を出る前に煙草を1箱ストックした。7月1日より300円の文字を見つけ、眉を顰める。

階段を降りると、サルスベリの葉が夜風にそよいでいた。

立ち止まって夜空を仰ぎ、月を眺めるのを忘れた。苦笑を浮かべながら無機質なキーボードを叩く。

___ spelt by vincent.

コメント (2)

vincent. 2009年10月 6日(火) 07:23

タイトルにある「サルスベリ」。
漢字で書くと「百日紅」。

木登りの得意な猿ですら滑ってしまうほど、樹皮がツルツルしているから、と云うのが命名由来だそうだが、漢字を当てると、なかなかに違った印象を覚える。

「猿滑り」ではなく「百日紅」。

覚えていたところで、生涯活躍することのないであろう雑学豆知識。

そんな感じで♪

vincent. 2009年10月 6日(火) 07:29

サルスベリの葉が夜風にそよいでいた
百日紅の葉が夜風に戦いでいた

並べてみると、その印象の違いに気付く。
音声で紡げば、どちらも同じフレーズだ。

やはり、文字は面白い。