だから、僕はグラスを傾けるのさ。

朧げな記憶の糸を辿って、なけなしの想い出を紡ぐ。

リブレースのように編み上がった想い出を透かしてみれば、虚ろな欠片がほつれた輪郭をたどたどしく縁取る。

黄金色の液体の上層に浮かぶ白い飛沫が音もなく弾ける。

継続不能の烙印を押されたならば、やはり潔く呑むべきだ。想い出は決して色褪せない。

未熟な魂が奏でる作られた悲痛に以前の自分をぼんやりと重ねる。

半身を引き剥がされるような思いを幾度も味わったが、性懲りもなく我が身を投じた。

そのとき拾ったものが暑さにまみれ、混濁した脳細胞の繊維に染み込む。

想い出は要らない。刻み込まれた渓谷で狼が咆哮する。

溶けない氷の鎖に雁字搦めに縛られながら、美しくて残酷な優しさの破片を背負いながら、まだ見ぬ目も眩むほどの鮮烈な輝きを追い求め、舗装されていない道なき茨道を漂泊するだけ。

背中を丸め、ひとりで嗤う。

ゆらゆらと立ち昇る紫色の煙の向こう側で、驚くほど静かで冷たい時間が緩やかに流れている。


僕の支えである涙が溢れるほど大事な人を想い浮かべながら、Fから始まるバーにて貧相な肋骨を軋ませる──。


コメント

2006年07月15日23:21 vincent.

そして、琥珀色の液体にシフトチェンジする。夏の夜は意識が鮮明だと都合が悪い。

___ spelt by vincent.