素直になれなくて

手痛い失恋を繰り返した彼は
素直になれない自分を知っている。

自分の気持ちや想いなど…
相手に届くはずないんだ──。

そう云って彼はハードボイルドを装う。

傷つくのが恐い訳ではない、と云う。
もう傷つく場所が残ってないだけなんだよ。

そう云って彼はヘラヘラと嗤う。


九死に一生を得た彼は
まだ死ねない理由がある、と云う。
そんな気がするだけ──とも。

それを知る前に簡単には晒せない。
自分の熱情や素直さはプロテクト──。

そう云って彼はヘラヘラと嗤う。


命懸けで愛し合い、命懸けで傷つけ合った。
彼自身、そんなことは厭わないが、
相手にそんな真似はさせたくない。


だから、彼は独りでヘラヘラと嗤い、
独りでハードボイルドを装う。


独りで居れば、
誰も傷つけずに済むだろう──?


だから、彼は独りでヘラヘラと嗤い、
独りきりでハードボイルドを装う。

___ spelt by vincent.