一回転半のススメ

燕雀えんじゃくいずくんぞ鴻鵠こうこくこころざしを知らんや

 白文:燕雀安知鴻鵠之志哉

僕の好きな言葉のひとつ。
史記「陳渉世家」出典。陳勝の言葉。


この陳勝と云う人物は陳勝・呉広の乱で知られることとなった人物であるが、若い時分、彼は日雇い農夫をしていた。

仲間に対して大きなことを吹いては揶揄されていたのだが、そのとき放った言葉が冒頭のフレーズだ。

ツバメやスズメのような小さな鳥にどうしてオオトリやクグイのような大きな鳥の志が分かるだろうか。小人物には、大人物の大きな志は分からない──と。

紀元前209年、兵士であった陳勝は秦の官吏に命じられて人夫を護送していたところ、途中の道で大雨に遭遇し、どうしても期日に間に合いそうもなかった。秦の法律では人夫が1日でも現場に遅れたら死罪である。

追い詰められた陳勝は「どうせ殺されるのならば…」と、仲間の呉広と共に反乱を企てた。

まずは、自らを人民から人気のある扶蘇・項燕であると詐称した。そして、魚の腹に「陳勝が王になる」と書いた布を入れ、夜に火をかしぎ、狐のような声で「陳勝が王になる」と吹聴した。

こうして「陳勝には不思議な力がある」と人夫たちに思わせた。

成り行きに不安を覚えた呉広が「俺は逃げる」と騒ぎだしたために怒った指揮官が呉広を鞭打った。陳勝はその間隙を縫って指揮官を殺害し、それを契機に反乱を起こした。

「王侯将相いずくんぞ種あらんや!」

 白文:王侯將相寧有種乎

王や諸侯、将軍、宰相になるのに血筋や家柄が必要な訳ではない。誰でもそう云った顕位に登ることができるのだ。

このとき彼はこんな名言も吐いた。

陳勝の反乱軍は瞬く間に膨れ上がり、旧楚の首都・陳城を占領した。その直後に賞金首として秦から追われていた張耳と陳余が配下となった。

そして、楚を復興したと云う名目で国号を「張楚」とし、自ら王位に就き、これに応じた地方の将軍や農民らも反乱を起こした。史実上、著名な項梁・項羽・劉邦もその中のひとりである。

冒頭のフレーズ。つまりは、のちの「張楚王」の言葉である。まさしく、鴻鵠の志を知らんや──である。


史記には、その他にも多くの故事成語が見られる。


  • 「完璧」 巻81・廉頗藺相如列伝
  • 「国士無双」 巻92・淮陰侯列伝
  • 「四面楚歌」 巻7・項羽本紀
  • 「右に出ずる者なし」 巻104・田叔列伝
  • 「怨み骨髄に入る」 巻5・秦本紀
  • 「雌雄を決す」 巻7・項羽本紀
  • 「傍若無人」 巻86・刺客列伝
  • 「立錐の地なし」 巻55・留侯世家
  • 「百発百中」 巻4・周本紀


面白いのは「鹿を馬となす」と云う言葉。これも出典は史記である。

http://ja.wikipedia.org/wiki/史記
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

所謂「馬鹿」の語源とも云われる言葉だが、馬鹿と云う言葉は、そもそも「莫迦」と云う僧侶間でのスラングが語源であると云われている。つまりは仏教用語である、と。

多分に、こう云った語彙誕生の経緯なりを知らずして、普段、何気なく垂れ流したりするのだろうが、さておき…

前置きが長くなったが──「一回転半のススメ」である。


大層な前置きの割りに拍子抜けするかも知れないが、詰まるところ、一回転くらいでは生温い、と。一回転したら元の位置やしねw

前置きの流れから汲むに、「馬鹿・普通・天才」の話をするのだろう。

vin.ちゃん、やっちゃってー(´∀`*)ノ


馬鹿と天才は紙一重などと云われるが、紙一重の僅差に翻弄されるまでもなく、もう全然、思い切って突き抜けよ。

完全にぶっちぎっちまいな。

と、簡単に云えば、そう云うことだ。

他人に「馬鹿」だのへったくれだの、そんな「評価の言葉」があるうちは、ちっとも「オリジナル」ではないのだ。

或いは「個性」などと云うことが真しやかに取り沙汰されたりもするが、突き抜けていない者にその「個性」とやらは、本来、皆無なのだ。

微塵もナッシング。


測れる物差しがある以上、それ以上でもそれ以下でもない。「真の破天荒」とは、そもそもそんな次元には居ない。破天荒を善しとする、と云う訳ではないが、僕は、そんな風に感じる。勝手知ったる破天荒など……可愛らしいものだ。


…とは云え、好き好んで排斥されるような道をわざわざ選択することもないので「適当」に取り繕う。

理解の度合いで左右されるような向きに自身の根幹を預ける必要はない。「流麗」と云う言葉は、そのための呪文のひとつだ。


一回転半していると…そう努めているだけでも…不思議と「怖いもの知らず」が貫ける。心地好く風雅な涼風が精神世界を優しく撫でるのだ。


燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや


僕は、この言葉を中学生時分に知った。その頃からこの言葉を座右の銘のひとつに加えていた。

言葉は安い。特に、綺麗事の類いはワゴンセールだ。ただ、それを重く捉える者だけが、その言霊によって自身のポテンシャルを自らで覚醒させる。

そんな気がしてならない。


さぁ、弾けちまいな☆(´∀`*)


【追記】

燕雀えんじゃくいずくんぞ鴻鵠こうこくこころざしを知らんや
〔出典〕『史記』陳渉世家
〔解釈〕ツバメやスズメのような小さな鳥には、オオトリやコウノトリのような大きな鳥の志すところは理解できない。小人物には大人物の考えや志がわからない、というたとえ。
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【燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや】
陳渉少時、嘗與人傭耕。輟耕之壟上、悵恨久之、曰、苟富貴無相忘。
陳渉ちんしょうわかき時、かつて人ととも傭耕ようこうす。
こうめて壟上ろうじょうき、悵恨ちょうこんすることこれを久しくして、いわく、富貴ふうきなりとも、あい忘るること無からん、と。
  • 陳渉 …陳勝。陽城の人。あざなは渉。秦に対し反乱を起こし、秦を滅亡させるさきがけをなした。
  • 傭耕 …人に雇われて農耕する。
  • 壟上 …小高い丘の上。
  • 悵恨 …なげきうらむ。
庸者笑而應曰、若為庸耕。何富貴也。
庸者ようしゃ笑ってこたえていわく、なんじ庸耕ようこうす。何ぞ富貴ふうきならんや、と。
  • 庸者 …雇い主。
陳渉太息曰、嗟乎、燕雀安知鴻鵠之志哉。
陳渉ちんしょう太息たいそくしていわく、嗟乎ああ燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、と。
  • 太息 …ため息をつく。
  • 燕雀 …ツバメやスズメのような小さい鳥。転じて度量の小さい人。小人物。
  • 鴻鵠 …大きな鳥。転じて大人物。
王侯おうこう将相しょうしょういずくんぞしゅらんや
〔出典〕『史記』陳渉世家
〔解釈〕王侯や将軍・宰相となるのは、家柄や血統によらず、自分自身の才能や努力による。
Yahoo!辞書 大辞泉
【王侯将相寧んぞ種あらんや】
呉廣素愛人。士卒多爲用者。將尉醉。廣故數言欲亡、忿恚尉、令辱之、以激怒其衆。尉果笞廣。尉劍挺。廣起奪而殺尉。陳勝佐之、并殺兩尉。
呉広ごこうもとより人を愛す。士卒しそつ、用をさんとする者多し。将尉しょうい酔う。こうことさらにしばしばげんと欲すと言い、忿恚ふんいせしめ、これはずかしめしめ、もって其の衆を激怒せしめんとす。果たしてこうむちうつ。の剣く。こうちて奪いてを殺す。陳勝ちんしょうこれたすけ、あわせて両尉を殺す。
  • 呉広 …秦末の農民。陳勝・呉広の乱を起した。
  • 忿恚 …怒り憤らせること。
召令徒屬曰、公等遇雨、皆已失期。失期當斬。藉第令毋斬、而戍死者、固十六七。且壯士不死即已。死即舉大名耳。王侯將相寧有種乎。徒屬皆曰、敬受命。
召して徒属とぞくに令していわく、公等こうら雨に遇い、皆すでに期を失えり。期を失うはざんに当たる。たとだ斬らるることからしむとも、じゅの死する者は、まことじゅう六七ろくしちなり。壮士そうし死せずんばすなわまん。せばすなわ大名たいめいを挙げんのみ。王侯将相寧んぞ種有らんや、と。徒属とぞくいわく、つつしみてめいを受けん、と。
  • 徒属 …仲間。
  • 戍 ……辺境守備。
  • 将相 …大将と大臣。
  • 種 ……血筋。
___ spelt by vincent.