愛しい人の元から帰宅途中、電車の中で不意に俺の足に何かぶつかった。
コンビニかなんかのビニール袋。
何さらすねんオッサン、と思いながら足下から彼の顔を舐めるようにスキャン。
隆司くん。苦笑
仕事帰りの親父に出くわした。この広い東京砂漠の同じ電車の同じ車輌で。。☆
「偶然やなぁ…」
俺がそう云うと、満面の笑みを浮かべる隆司くん。
「何? 気付いてたんか?」
「や、今、気付いた」
「あっそぉ。何? 今日は残業で麻雀かい?」
「バカ。やらねぇよ。明日も仕事だよ」
「あっそぉ。何入ってんの?」
「ん? コロッケとサラダだよ。俺のファンクラブの子から貰ったんやぁ」
「あっそぉ☆」
しばらく、あーでもないこーでもないを喋くり、飯でも喰うか、と云うことになった。
FADDISHの並びにある居酒屋「あら川」。
中坊の頃から行っている店だ。
親父は「十四代」と云う日本酒を飲みたかったそうだが、生憎、品切れだと云う。
「あっそぉ☆ 人気あんだねぃ☆」
にこやかにリップサービスの隆司くん。
「お姉さんのオススメなぁに?」
「『夜明け前』ってゆーのが似てるかも」
「あっそぉ。じゃ、それちょーだいよ。おう、お前は?」
「あ? オイラ、中生でええよ」
「そっか。じゃ、お姉さん。よろしくねー」
どう見ても40代の彼女に対して、何を血迷ったんだか怒濤の「お姉さん」責め。血は争えない。。苦笑
程なく、気を良くした昔の『お姉さん』が『夜明け前』をいそいそと運んできた。
「『夜明け前』かぁ。えぇ名前の酒やねぃ」
とオイラが洩らすと、
「あぁ、せやなぁ。いつでも『夜明け前』やなぁ」
と苦笑を浮かべる隆司くん。
「還暦リーチで夜明け前もあったモンじゃねーけどな?☆」
「まぁま、そーゆーなよ。。☆」
少し遅れて中生が到着。乾杯♪
今後のことについて何事かを喋くり合った。
「お前と喋るのも久々やなぁ」
「ま、オイラ家いねぇしな」
「しかし、相変わらず、お前も理屈こねやなぁ?」
「製造元が責任感じろよ☆」
「ひゃっひゃっひゃ。変わってるな、お前も」
モツ煮込みをつまみながら笑顔の隆司くん。
何故か、痛かった──。