一過性の狂乱

昨夜は渋谷に行った。
金曜日の渋谷は人がごった返していた。

メンツはオイラ、ozone、兄弟分のよーちゃんの3人。

1軒目は沖縄料理屋。
以前、ozoneとふたりで行った店。

ゴーヤチャンプルーなんかをつまみながら生ビールを飲んだ。
てか、オイラ、殆ど何も喰ってねー。
よーちゃんは一番ガタイもいいので、ひとりがっついていた。

生ビールを4、5杯飲んだ後、シークァーサービアを頼んだ。
ア、イーヤーサーサー♪ とかいいながら、それを飲んだ。
このビールは、ま、パナシェなんかと同様、ビールカクテルだ。シークァーサーの酸味が心地よい。

なんやかんやとしゃべくり倒して暑気払い。
まぁ、身にならない他愛もない話も一段落。
「そろそろ」ゆーことで河岸を変えることにした。

会計を済ませた後、しばらく歓談に耽っていたのだが、「お時間ですので」と店員が追い出しに掛かって来た。
「俺ら宴会か?」などと苦笑しながら店を後にした。

2軒目はInsomnia Lounge.
「不眠症」という名のバー。朝5時まで営業している。
この店もozoneと一緒に来た店だ。

赤絨毯が敷き詰められているこの店は靴を脱いで店に入る。
照明は薄暗く、バーボンの種類は少ないもののオイラ好みの店だ。

カウンターも掘り炬燵のようになっていて、ちょうど、宅飲みのような錯覚を覚える。まぁま、くつろげる店だ。

カウンターに3人並んで坐った。
以前、来たときに兄弟分になったバーテンダーが2、3人いた。

「お久しぶりです♪」

まぁ、だいたいドコに行っても強烈なインパクトを与えるオイラは店員に顔を覚えられる。悪さはできない。

「おう! 久し振り!」

1杯目はみんな生ビール。勿論、店の兄弟分にも生ビールを勧めた。
乾杯して、あーでもないこーでもないをしゃべくりはじめた。

2杯目以降。
オイラはジャック・ダニエルのダブルロック、この店はロクなバーボンがないからテネシーウィスキーで我慢することにしている。ozoneはテキーラトニック。よーちゃんは多分ジンかウオツカトニックだろう。オイラ以外は、まぁ、女子供のようなかわいいのを飲みやがる。
元バーテンダーだったオイラは、カクテルの類いは殆どクチにしない。飲んでもギムレットかダイキリ・ロックくらいだ。

「いい店だろう?」などとよーちゃんに話ながらしばらく飲んでいると、店の入口から酔客の大声が轟いた。
そして、酔いどれがグラグラになりながら雪崩込んできた。
オイラは「やるなぁー」と笑いながら、そいつを眺めていた。

酔いどれはトイレに直行した後、まるで指定席に戻るかのようにオイラの隣りに坐ってきた。
店員の兄弟分が「済みません」と言ってきたが「や」と笑った。まぁ、この手の手合いは、オイラにとってまるで問題ない。酔っぱらいに腹を立ててもまるで意味がない。

一方的にあーでもないこーでもないをオイラにくっちゃべってきていたが、適当に笑いながらあしらっていた。

彼は、ここの元店員だと言っていた。
今はCMの制作会社に勤めているらしい。

「お兄さんは何やってる人なの? 何やってる人なのー?」
「あ? 酒飲んでる人だよ」
「そーぢゃなくて。そーぢゃなくてー。教えてよ、教えてよー」
「うるせえ奴だなぁ… お前、興信所か?」

お互いに全然へこたれないやつだ。

「じゃ、じゃ、じゃあさぁ。隣りの人たちは連れなのぉ? ねーねー」
「ああ、そーだよ。連れちゃうかったら並んで坐らんしなぁ」
「ホントにぃ? でも、でも、全然距離、離れてんじゃーん」
「ふたりはふたりの話で盛り上がってんだよ。いーじゃねーかよ。気にすんな」
「じゃ、お兄さんは話しないのぉ?」
「オメェがうるせえから話どころじゃねーだろ…(苦笑)」
「あーそっか☆ そーだよねぇー」
「すっとぼけた野郎だな… ま、いーけどよ(笑)ま、どーでもいーから飲めよ。な?」

そんなこんなでしばらく戯れていたが、彼の連れがふたり店に入ってきた。

「すみませーん。迷惑掛けちゃって」
「や、気にすんな。問題ナッシング☆」
「いい人なんですけどねぇ…」
「いい奴じゃねーかよ、どーでも(笑)」

苦笑いを浮かべながら、ふたりはカウンターに坐った。
しばらくして女の子もひとり来た。酔いどれ…名前は「ユースケ」…の部下だという。名前はチエコちゃん。お目目の大きな結構かわいい女の子♪

後から来たやつらと打ち解けた。ユースケとは仕事繋がりらしい。ふたりはオイラを「兄貴」と呼び、ケータイ番号の交換もした。毎度のことだが、我ながら男にも女にもナンパ野郎だ(笑)

そーこーしてるうちにユースケがグダグダになり、…ま、元からだが…チエコちゃんに絡み始めていた。会社での人間関係は知らないが、上司・部下の関係をプライベートにまで持ち出す輩にセンスは感じない。

「カラオケ行こう!」

多分、ユースケの歌声は推して知るべしだが、どの会社にもジャイアンはいる。

「兄貴。じゃあ行ってきますね。また一緒に飲みましょー」

ケータイ番号を交換した弟分のケイゴが言った。もうひとりのナオユキもペコッと頭を下げた。

「おう! 一緒飲もうな!」

ケイゴの「じゃあ行ってきます」の「じゃあ」に「しょーがないので…」が含まれていることを感じながら見送った。

「しょーがなく… ねぇ…」

しばらく連れと飲んでいたが、カラオケの様子が気になりだして仕方なかった。

「よーちゃん。カラオケ行ってみよーか?」
「あ? 行かなくていーよ。あんなの放っとけよ…」
「や。ドコ行ったか、ちょっとケータイしてみるわ」

ナオユキに掛けたが、繋がらずケイゴに掛けてみた。

「やめとけよ。ったく、兄貴はしょーがねーなぁ…」

よーちゃんが呆れていた。
近所のカラ館にいるというので、3人で行こうと思った。

「ozoneは行く?」
「や。帰りますよ」
「そっか。そらしゃーねーな。よーちゃんは?」
「やめとけよ… ま、止めても聞かねーだろーけど…」

Insomniaを後にしてカラ館に向かった。
フロントでドコにいるのか部屋番号を訊いた。901号室。
ジャイアン他数名は、そこにいる。

「よーちゃん。行ってみよーぜ」
「いーよ… ったく、兄貴は…」

相当、雲行きが怪しかったので流石のオイラも諦めた。
ozoneとは、ここで別れた。多分、眠さのほうが勝っている感じだった。

「じゃ、ドコ行く? オイラ、まだまだ飲み足りねーよ」
「地元で飲もうや。タクシーのクーポンあるから」
「この時間でやってる店ゆーたら『庄や』くらいか…?」
「庄やも閉まってんじゃねーかぁ?」
「マジでか!? 金曜日なのにやる気ねーなー…」

個人のタクシーに乗り、地元に向かった。

「じゃあさ。サラちゃんトコ行ってみるか? よーちゃん、ケータイしてみろよ」
「いねーんじゃねーかな? 明日(土曜日)ラストゆーてたし」
「とりあえず掛けてみろよ」

よーちゃんがサラちゃんにケータイを掛けたが、留守電だった。

「あっそ。じゃ、オイラが店に電話してみるよ」
「ああ。分かった」

店に電話をすると、ボーイが出た。

「ありがとうございます。○○でございます」
「おう。店やってる?」
「は? あの… どちら様でしょうか?」
「何だよ。声聞いて分かんねーのかよ? オイラだよ。しょっちゅう行っとるやんけ」
「あ! ハイ! 失礼しました!」

いつも思うのだが、ここのボーイはまるでなってない。サービス業の何たるかをまるで理解していない。
女の子のいる店では女の子が華で男はクソだ。オイラも未経験じゃない以上、そのくらいは分かっているつもりだ。

女の子が働きやすいように細心の注意を払うべきだ。
タチの悪い客もお金を頂いている以上、お客様だ。自分の気分や感情など一切無関係だ。

相手は酔っぱらいだ。正論は通用しない。
ただ、相手の気分を悪くさせない、という最低ラインの約束があるだけだ。

「お店はやってますかぁゆーて訊いてるんやけど」
「ハイ… あの… 大変申し訳ございませんが… お時間のほうが…」
「あ? 何? 時間がどーしたって?」
「ハイ… 閉店間際ですので… その…」
「閉店時間は分かったよ。一杯だけ飲ませろよ。すぐ帰るから」
「ハイ… でも… あの…」
「あぁ? 何だっつーんだよ?」

オイラはタクシーの中で唸り飛ばした。話の流れが兄弟分にも伝わるように相手の言うことをオウム返しで喋りながら続けた。

しばらくして電話を切った。兄弟分もご立腹の様子。

「何だっつーてんだよ、あのガキは?」
「よーちゃんも聞いてたろー? 信じらんねーぞ、あのボケは」
「あの店ぁダメだ。まったく分かってねー」
「だな。まぁ、とりあえず地元帰ろーや」
「だねぃ」

高速を飛ばして地元に到着した。

「兄弟。ホントに終わってるかどーか覗いてみよーや♪」
「おう。そやねぃ♪」

ビルの3階にある店に向かった。看板は消えていたが、中から声が聞こえた。オイラは店のドアをバーンと開けた。

「おう! まーだやってんじゃねーか」

電話対応していたアホが走り寄ってきた。

「お客様。困ります。もう閉店なんです」
「ん? 他にお客さんいるじゃねーか。一杯飲ませろよ」
「や… ホントに… あの… 困ります」
「何なんだよ? オイラしょっちゅう来るのにそんなかよ?」
「や… あの…」

ドアを閉められ、店外に連れ出された。

「お前じゃ話になんねーよ。店長の○○くん出せよ」
「や… 先に帰っちゃいました…」
「あ? なんだそりゃ? ったく…」

余りグレててもしょーがないので、切り上げることにした。

「おう。じゃ店長に言っとけ。オイラ達ぁ二度と来ねーからよ。それと女の子にも言っとけ。平日にキチガイみたいな時間にケータイ鳴らしてくんな。こっちは仕事中なんじゃ、ボケ!」

きびすを返して店を後にした。あぁクソ気分ワリイ! を吠えながら庄やに向かった。

「よーちゃん。ゴメンなぁ。オイラ、マジもー行かねーからよ」
「や、兄貴は正しいよ。あのボケ、まったくダメだ」

さっきの店はよーちゃんが紹介してくれた店だった。
初日は大いに盛り上がり、いい店見つけたなぁと喜んでいたが、後の対応がまずかった。

庄やに着いたが、案の定、店の看板は消えていた。

「やっぱ、ちょっと遅かったか…」

オイラの姿を発見した店長が店の中から飛び出してきた。

「お兄さん、どーもー! どっか行ってたんですか?」
「ああ。兄弟と一緒に渋谷行ってたよ。もー終わり?」
「ハイー さっき閉めちゃいましたぁ…」
「そっかぁ。ビール一杯だけ飲ましてよ」
「いやぁ… 電源落としちゃったばっかりなんで… 今度来たとき一杯ご馳走しますよ!」
「おお、そっか。分かったよ。また来るねー♪」
「ありがとうございましたぁ!」

兄弟と一緒に庄やを後にした。オイラは満面の笑顔で手を振った。これが水商売の鏡だ。常連客を大事にする姿勢。美しい。

酒を売ってナンボの世界ではない。店選びに迷っているとき、「あぁ、あの人がいるから…」という理由で、人間関係の判断が勝るものだ。男だ女だという性別は関係ない。

人間対人間。これがコミュニケーションの原点であり、結果、商売にも繋がる。アホな対応の後だっただけに、店長の姿がより美しく映った。

ダーツバーに行き、飲み直した。ここの店長とも兄弟分だ。オイラにはいろんな所に兄弟がいる。

カウンターには若い夫婦が一組いた。小さなお子さま連れだった。以前のオイラだったら「酒場にガキ連れてくんじゃねー。みっともない」と一喝していたが、最近ではかなり丸くなった。

「何飲んでるのー?」と若い夫婦と仲良く一緒に飲んだ。
聞くと、なかなかに深い事情のある夫婦だった。
小さなお子ちゃまはママの連れ子だそうだ。オイラは旦那に向かってグラスを持ち上げ、

「おう、やるなぁー兄弟。乾杯♪」

と、エールを送った。旦那のほうもグラスを持ち上げ応えてくれた。

よーちゃんはしばらくして帰ってしまったが、オイラはまだまだ飲み足らず、底なしの勢いで飲み続けていた。この辺りはまったくのダメ人間だ。飲み出すと止まらない。

店長を合わせ、5人で仲良く飲んでいると、ニッカボッカをはいた若い男がひとり入ってきた。店長とは馴染みのようだった。

彼とも打ち解けて仲良く話していたが、彼も酒が回ったのだろう。どういうわけだか急に機嫌が悪くなり、オイラに絡み始めた。

この辺りは余りクドクド書きたくないので割愛するが、家路に着き、暗い部屋に戻ったとき、右の手の平に付着した返り血を眺めながら朝から澱んだ気分になった…

___ spelt by vincent.