「あなたと彼女はどう云う関係なんですか?」
高田馬場の事務所から電話を掛けていた。
生憎、時間も時間だったため終電はなかった。間の悪いことに持ち合わせも底をついており、駆け付けられなかった。
やむにやまれず、一番嫌いな機関に依頼したのだが、やはり足留めを喰う。
受話器の向こう側から体制の飼い犬が尋ねてきた。
「我々は犯罪を未然に防ぐために居る訳ですが、ガセネタの類いも多くてね──」
受話器を握りしめたまま犬の眼を射抜いた。
「僕の云っていることがガセだと?」
「いえ、そうは云ってませんが… 無関係な人の話をそのまま聞く訳には──」
苦笑を浮かべた。『無関係? ほう──』
「あなたと彼女はどう云う関係なんですか?」
犬に人間の言葉は通用しないようだ。言葉を選びながら、しかも何の躊躇もなく──
「信頼関係──だよ」
と、云い放った。
程なく僕の指示通り、彼女は保護された。同居していた暴漢から遠隔に居ながら遠ざけた。
後に、身柄引受人として彼女の両親が呼ばれた。数年間、断絶していた両親と彼女は再会することとなる。
シェルを見詰めながら、そんなエピソードが脳裏をよぎる。去年の6月頃、まだ暑くなる少し前のこと。
自分の城を持たねば、と決意したときの話だ。