俺ぁね。毒蛇になりてえのさ。
マムシの兄弟だとかコブラ・ツイストだとかそんなヤワなもんじゃなくてよ。
ガブリとやれば一撃必殺。狙った獲物は逃がさねえ、てな猛毒を孕んだ男でいてえってことさ。可笑しいかい?
俺が毒蛇だってハナから知ってたら相手のほうから勝手に退いてくれるだろ? 機嫌損ねてガブリとやられちゃあかなわねえからな、普通にビクつく。
ま、良く云やあ一目置かれる、悪く云やあ煙たがれる。いずれにしても、滅多やたらにゃあ攻撃されなくなるってことだ。
それに毒蛇てなぁどんな猛毒孕んでいようが手前の毒気に当てられて死ぬこたあねえ、耐性があるからな。
それでも一撃必殺。狙った獲物は確実に仕留める。
どうだ。えらく頼もしいとは思わねえか?
あとな。みんな勘違いしてるみてえだが、毒も薬も、実は両方とも毒なんだよ。じゃなけりゃ効果は薄い。なる程、用法・用量を誤りゃどちらも絶命する。
まぁ、良薬口に苦し、てなとこだな。
そう考えると、世の中、ケチな毒薄めて生き長らえてるだけかも知れねえな。ひょっとして、お前もそのクチかい?
ただ、その毒蛇もな。手前の猛威をよく知ってるから傍目にゃ臆病に映るんだよ。やたらと振りかざせねえことを知ってるからな、ジッと息潜めてる訳さ。
で、いよいよってときにガブリとやっちまおうって腹よ。そんな機会を虎視眈々と狙ってるって寸法さ。おっかねえだろ?
とまぁ、そんな訳でな。くどくど管巻いて講釈垂れてみたが、とどのつまりが、俺ぁ毒蛇になりてえってことさ。
…って、痛っ
男が恐る恐る足許に視線を向けると、極彩色豊かでぬめり気のある、太くて長くてニョロっとしたものが喰らいついていた。
憧憬と羨望の毒蛇だった。
毒を以て毒を制す。
男子本懐の極みと散るらん。
合掌──。