「ボーダレスと云うボーダーを潜り抜けるゲート」
師が静かに宣う。
「これは『通過儀礼』なのだ。誰もが通り過ぎる」
「誰もが?」
「少なくとも私の知り得る限りは」
それを聞いた少年は苦笑した。
「成人式と同等って訳だ?」
「そうだ」
少年はひと呼吸置いてから吐き捨てた。
「横断幕引き裂くくらいが関の山さ」
師は微笑を浮かべる。
「あんたの知ってる人ってのも大したことないな」
「──かも知れぬ」
師の遠い眼差しが虚空を捉えた。
「表層のボーダーに絡め取られる少年よ」
「──!?」
「幾ばくか猶予あらば聴き留めるが宜しい」
「一体、何を?」
「ゲートを潜り給え」
「ゲート?」
「ああ。そうだ」
「そんなもの… 何処にも見えないぜ?」
師が再び微笑を浮かべる。
「目視できぬものは存在しない?」
「ああ。見えなきゃあるかどうか分からん」
「では、手始めに呼吸を停止せよ」
少年は息を呑んだ。
「良いか。大事なものは眼には映らないのだ」
「……」
「眼前に広がる世界はすべて蜃気楼」
「……」
「私の話し掛ける声ですら──甚だ怪しいものだ」
「……」
「だが、だからこそ私は敢えて音声を紡ぐ」
「……」
「ボーダレスと云うボーダーを潜り抜けるゲート──少年よ。無事、潜り抜けてみせよ」
少年が眼を瞠った。
「未曾有の快楽が其処にある」
「必殺の呪文はないのか?」
「──ある」
「それは?」
「我が魂の命ずるままに──」
師と少年の間に柔らかい風が舞った。