「憎むなら永遠に憎め」
「──」
「途中で降りるなら初めから憎むな」
「随分、強欲だな?」
「強欲?」
「ああ。永遠なんて信じているのか?」
「信じる? 俺は何も信じない」
「フフ。まだまだ未練は残ってるさ」
「未練?」
「ああ。まだ自分を信じてる」
「──」
「図星か?」
「や、図星ではない。当たらずとも遠からず、だ」
「フフ。陳腐な痩せ我慢だ」
「逆に問うが──自分を信じている者が憎しみを求めるか?」
「ほう。貴様は憎しみを求めてるのか?」
「愛が転ずれば憎しみに変化するだろう?」
「ああ。愛憎の念、って奴だ」
「故に愛など要らぬ。脆くも消え去る感情に興味はない」
「永遠を求める、と?」
「そうだ。憎しみならば永遠に継続するだろう?」
「フッ。可哀想な奴──」
「可哀想?」
「ああ。乳飲み子と変わらん」
「貴様、愚弄するか?」
「その壇上にすら上がってないさ」
「さぁ、憎め。俺を永遠に」
「それは命令か?」
「どうとでも受け取れ。俺の望みは言い放った」
「そうか。分かった」
男は背中に背負った刃渡り2メートルはある剣に手を掛けた。対峙する男の眼光を射抜きながら、ゆっくりと構える。
「──何を?」
「貴様の望みを叶えてやろう」
「その剣で何をしようと云うのだ?」
男は片眉を上げた。
「貴様を殺してやる──」
「──!?」
次の瞬間、蒼白い閃光が男の肩口から腰骨目掛けて振り下ろされた。衣服が斬り裂かれ、中から堪らず鮮血が噴き出した。膝を折り、地面に崩れ落ちる。深紅の海が男を囲む。
剣に滴る血を虚空で振り払うと、男は背中に剣を背負った。地に伏す男の断末魔の残り火。
「ぐむぅ… 貴様、憎む訳だな……?」
踵を返しながら伏した男を一瞥。
「俺に憎しみはない」
「では、何故?」
男は虚空を睨みながら呟いた。
「望みを抱えたままに散れ──永遠に」
男は地から縋るような視線を投げた。
「──ありがとう」
男の望みを叶えた男はそれには応えず、一歩踏み出し歩き去っていった。渓谷には慟哭ともとれぬ響きが