「どうした? 眠れないのか?」
「ああ。そんなとこだ」
「何故?」
「理由を云えば解決するのか?」
「そう突っ掛かるなよ」
「煙草を喫ってるだけさ」
「何本目だ? 喉のことはお構いなしかよ」
「煙が眼に滲みた言い訳がし易い」
「眼を閉じれば滲みることもないぜ」
「眼を閉じると、浮かぶものは決まってるのさ」
「それは?」
「大事なものだよ──」
「ほう。だったら嬉しいことじゃないか」
「嬉しくなくても人は笑うのさ」
「安心しろ。伝わってるさ」
「どうだかな。俺のアテは当たることのほうが少ない」
「確率の問題じゃない」
「じゃ、何の問題なんだ?」
「魂さ」
「フッ。たまには良いこと云うんだな?」
「ああ。突然変異と天変地異の併せ技みたいなものさ」
「フフ。いいな、お前は」
「何故?」
「眠らなくても存在できる」
「ああ。『魂』だからな」
「違いない」
「余り俺を粗末に扱うなよ?」
「誰が? 俺がか?」
「ああ。磨り減ってしまうぜ」
「企業努力でカバーしろよ」
「それはお前次第だろう? 従業員はお前だけだぜ」
「フフ。酷な経営者だ。それじゃ誰も付いて来ないさ」
「それはお前も知ってるだろう?」
「ああ。だが、逃げられない」
「どうした? まだ、眠れないのか?」
「ああ。眠れない時には無理に眠ろうとはしない。脳天が痺れるまで引っ掻き回すだけさ」
「馬鹿な従業員を持つ経営者の苦悩も汲んで欲しいぜ...」
「フッ。ブラック企業の長が泣き言云うなよ」
「やれやれ。強情な奴だ... ま。好きにするさ」
「流石、話の分かる経営者。助かるよ」
「何かあったら呼んでくれ。何もなくても付き合ってやる、いつでもな」
「滲みるねぃ」