自己中心的 - 世界の中心

「ねぇ、世界の中心って何?」

目許の涼しげな男が無表情なまま問う。

「君の世界の中心は、って訊いてるんだけど」

問われた男は何も応えない。

「僕の世界の中心は僕。誰にも譲らないよ」

問われた男の視線が泳ぐ。

「世界の中心が他所にある人のほうが危なっかしい。所詮、他人は他人、中心になれる筈がない。それは肉親でも兄弟でも同じこと。自分以外はすべて他の人格だし、制御不能だからって愚図ったりする訳でしょ?」

畳み掛けられた男の額には脂汗が滲む。

「君の世界の中心って何?」

一念発起したように、

「じ、自分です…」

とモスキートボイスが洩れ出した。無表情な男の口許が僅かに緩むと、緊迫した空気も弛緩した。

「グラグラだね──」

天使のような微笑みを浴びせられた男は視線を落とすだけだった。

___ spelt by vincent.