一寸の虫にも

ビールを買いにコンビニへ行った。

近所には区で保護されている旧家がある。
樹齢までは分からないが、庭には樹々が鬱そうと生い茂り、この時期、昼間だとセミの声が鳴りやまない。

街灯が少ない、薄暗い道を歩いた。
軽自動車がギリギリ入れる程度の、それほど道幅のない道の真ん中を歩いた。
俯いて歩くクセはないが、ひとりで歩くときは、大抵、地面を見つめながら歩くことが多い。

はたと立ち止まった。
動かなくなったセミがひっくり返っていた。

それを見るともなしに、しばらく眺めていると、突然、羽をばたつかせ、ひっくり返ったまま地面を旋回し始めた。
断末魔の声ともならない鳴き声と共に。

目的地に着く前に、別のキャスティングで、そんなシーンが2、3度、繰り返された。

俺は彼らをよけながらコンビニを目指した。

雑誌を物色し、ウロウロと店内を一周りしたところで、一番搾りの500ml缶を2本手に取り、レジへ向かった。

コンビニの前でたむろする素行不良な男子女子をすり抜け、赤信号の前で足止めを喰った。

往きと同じ道順を逆に辿り、さきほどのステージに差し掛かった。
少し歩く速度を落とし、ゆっくりと歩いた。

冒頭シーンで登場したキャスティングは、皆、息絶えていた。
おもちゃを弄ぶように野良猫が戯れていた。

俺は野良猫を追い払うと、ステージを後にした。

十数年もの歳月、地中で過ごした彼らのことをぼんやりと思い浮かべながら、今、ビールを胃の腑に流し込む。

___ spelt by vincent.