「もう! あんたなんか要らない!」
溜まり兼ねた女が怒声を浴びせた。
「ほう。レシートか領収書はあるのか?」
悪びれる様子もなく、男が問う。
「どういうこと?」
「要らないなら返品すればいい」
「あんたを買った覚えはないわ!」
「それはどうかな?」
女の怪訝な表情。
「俺の気概なりを買ったんじゃないのか?」
「何云ってるの!? 意味分かんない!」
「つまりは可能性だよ。飼い慣らせると高を括ってたんじゃないのか?」
「そういう考え方が嫌なの!」
「生意気な女だな、勝手に惚れといて」
「あたしだって結構損したわよ! あんたなんかに会わなければ良かった!」
「損得勘定なんざしてたら身が保たない」
「あたしの青春返してよ!」
男が片方の眉を上げる。
「生憎、レシートも領収書も持ってない」
女は呆れ果て脱力した。
売買成立──。
資本主義は意外と呆気ない。
*2016.06.13・草稿