「優しさの条件ってな、みっつあるんだよ」
「みっつ?」
「そう。知りたい?」
「面白そうね。聞かせて」
「まずひとつ目は優位性ってことなんだが、こいつは案外知られてる。まぁ、簡単に云えば、余裕のあるときってのは他人に優しくできるってこと」
「そうね。手を差し伸べられるわ」
「そうだろ? で、ふたつ目は利害関係だ。こいつは結構、厄介な代物でな。こいつのお陰で優しくできなかったりするケースにも出会す。人間てな損得勘定が絡むと余裕がなくなっちまうからね」
「そうね。ビジネスには必要な要素だけれども」
「そう。でも、優しさってのはビジネスじゃない。だから、優しさの条件に利害関係は要らないのさ」
「ええ。で、みっつ目は?」
「干渉さ」
「干渉?」
「そう。例えば『あなたのために』だとか『折角、こうしたのだから』だとか、恩着せがましく優しさを押し売ってきたりするだろ?」
「ええ。そんなケースはよく耳にするわね」
「それって実は、全部、干渉なのさ」
「そうかしら」
「ああ。表面上、優しさを取り繕ってはいるものの、その実、腹ン中は意外と分からねえもんだぜ?」
「どういうこと?」
「つまりは、ふたつ目の条件と絡んでくるってことだな」
「利害関係──」
「そう。そいつの所為で優しさを安売りしなきゃならなくなる。そうしといて得するのは自分だからな。てな訳で、こいつも優しさの条件からは除外ってことだ」
「あら、そういうものかしら」
「そうさ。だから、俺は君に優しくできないんだよ」
「そうなの?」
「ああ、君の前だと余裕も何もあったもんじゃない。第一条件の時点でアウトさ」
「面白いわね。あたしはふたつ目の優しさにしか興味ないわ」
「ふたつ目──」
「そうよ。ひとつ目もみっつ目も邪魔なだけだわ」
「鼻っ柱が強いね」
「あなたの出した優しさの条件──『優しさって、こういうもんだぜ』っていう押し売り。それってあたしに対する干渉じゃないの?」
「と云うと?」
「つまり、得したいのはあなただけってこと」
「フッ、こりゃ出直したほうが良さそうだな──」