vin.spell | the spiritual ruler's monologue tag:spell.vincent.in,2016-02-19://2 2020-01-31T01:29:06Z ここは言の端の集積所 時に移ろい 時に動じる 水面に漂う 木の葉のように 路傍に荒ぶ 芥のように── Movable Type Pro 4.28-ja God save me tag:spell.vincent.in,2017://2.2809 2017-11-25T02:01:55Z 2020-01-31T01:29:06Z 「よく頑張ったね」 彼が優しい表情を浮かべながら彼女の前に立った。彼女は涙をいっぱい溜めた瞳で彼を見つめた。 「神様が見ていたかどうかは知らないけれど、僕は君を見ていたよ」 その言葉に彼女は感極まった。堰切ったように彼の胸に飛び込むと、瞳いっぱいの涙を溢れさせた。彼がポンポンと頭を撫でる。 「頑張った人にはご褒美が必要だよね」 彼女は怪訝な表情を浮かべながら上目遣いで彼を見上げた。 「プレゼントがあるんだ」 そう云うと、綺麗にラッピングされた小さな箱を取り出し、彼女に手渡した。 「これは…?」 「開けてご... vincent. 「よく頑張ったね」

彼が優しい表情を浮かべながら彼女の前に立った。彼女は涙をいっぱい溜めた瞳で彼を見つめた。

「神様が見ていたかどうかは知らないけれど、僕は君を見ていたよ」

その言葉に彼女は感極まった。堰切ったように彼の胸に飛び込むと、瞳いっぱいの涙を溢れさせた。彼がポンポンと頭を撫でる。

「頑張った人にはご褒美が必要だよね」

彼女は怪訝な表情を浮かべながら上目遣いで彼を見上げた。

「プレゼントがあるんだ」

そう云うと、綺麗にラッピングされた小さな箱を取り出し、彼女に手渡した。

「これは…?」
「開けてご覧」

高鳴る胸の鼓動と共にラッピングを解き、箱の中身を取り出すと、彼女は小首を傾げた。

「これは… 何かしら…?」

彼は得意満面な笑顔で答えた。

「眼鏡だよ」
「それは分かるけど… あたし、眼は悪くないわ…」

溜まらず彼が吹き出した。

「そんなことは知ってるよ」
「じゃあ、どうして? 眼鏡を貰っても…」

彼は彼女の唇に人差し指を添えて遮った。

「それは『神様透視眼鏡』だよ。神様が透けてみえるんだ」
「神様透視眼鏡…」

「ああ。それがあれば神様の居処が分かるだろ?」
「居処…」

「居処を突き止めたら文句を云えばいい。どうしてきちんと見てくれないんですか、って」

彼女は穴が空いたように彼を見つめた。


God save me...

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或る阿呆の話 - 億劫男の呪文 tag:spell.vincent.in,2016://2.2764 2016-06-24T16:18:01Z 2016-10-18T12:56:04Z どういう経緯でこうなったかのかは定かではないが、ひとりの男が複数の男たちに囲まれていた。見るからに屈強そうな体格の良い男たちがジリジリと間合いを詰めてくる。まさに一触即発の危険なムード。そんな渦中にありながら、囲まれた男は億劫そうな表情を浮かべるだけで、少しも動じている様子はなかった。 「お前らまとめて相手するほど、お人好しのつもりはねえんだがなぁ…」 「うるせえっ! 手前の御託は聞きたくねえっ!!」 ... vincent. どういう経緯でこうなったかのかは定かではないが、ひとりの男が複数の男たちに囲まれていた。見るからに屈強そうな体格の良い男たちがジリジリと間合いを詰めてくる。まさに一触即発の危険なムード。そんな渦中にありながら、囲まれた男は億劫そうな表情を浮かべるだけで、少しも動じている様子はなかった。

「お前らまとめて相手するほど、お人好しのつもりはねえんだがなぁ…」
「うるせえっ! 手前の御託は聞きたくねえっ!!」

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掟神 tag:spell.vincent.in,2014://2.2607 2014-04-18T16:11:42Z 2017-06-29T23:20:18Z 新たなルールを書いた紙を、人知れずそっとテーブルの上に置いてゆく神がいる。 ど... vincent. 新たなルールを書いた紙を、人知れずそっとテーブルの上に置いてゆく神がいる。
どんなに理不尽で不条理な内容であっても、それが絶対的な掟となり、もし破ればその者の身に様々な危険が及ぶという。

或る男のもとにそれが届いた。

「実際、参ったぜ…」
「何が?」

「おきてがみさ…」
「置き手紙? 何だよ。『探さないでください』ってか? そりゃ『全力で探してくれ』ってメタファーさ。お前も隅に置けねえな」

「茶化すなよ。そんなじゃねえよ…」
「じゃ何だよ。柄にもなく深刻な顔しやがって」

「掟神さ…」
「掟神? 何だよ、そっちなのか?」

「ああ…」
「マジか、そりゃツイてねえな…」

「実際、参ったぜ…」
「気の毒にな…」

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自分のためだけにお金を遣いなさい・急 tag:spell.vincent.in,2012://2.2623 2012-09-02T17:49:21Z 2016-10-30T09:39:00Z Sは老紳士Mの到着を待っていた。相変わらず、札束を凝視したままだ。 額から大粒... vincent. Sは老紳士Mの到着を待っていた。相変わらず、札束を凝視したままだ。額から大粒の汗が流れ落ちる。背中にも無数の虫が走った。

「…何やってんだ、俺は! この暑い中、部屋の窓、閉めっ切りじゃねえか…」

テーブルの上にあったリモコンをひったくり、エアコンのスイッチを入れた。せき切ったように冷風が吹き出す。額の汗を手で拭うと、頭の中で警報音がフェイドインして来た。

ワーニング! ワーニング! エマージェンシー! エマージェンシー! 分かってるよ、そんなことは! うるさい、大人しく待ってろ!

彼は煮えたぎった頭をなだめようと必死だった。

発信器だと? まだ、話してないことって何だ? 一体、俺は何に巻き込まれたんだ? 何か悪いことしたか?

まぁ、多少、思い当たる節がない訳じゃねえが… それにしても異常事態には変わりねえ… 何なんだよ、一体…

彼は謎の老紳士Mに冷静に、と云われたが、それどころではなかった。エアコンの冷気が頭を冷やしてくれるのを待つしかなかった。

まぁ、ジタバタしても始まらねえ。よし、彼が来たら問い詰めてやろう。俺に非はねえ。洗いざらい白状させてやる…

彼は腹をくくると、ソファから立ち上がり、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。プルタブを倒し、ひと口呷り、ひと呼吸。札束の前に缶ビールを置いた。

部屋の温度も徐々に下がり、何とか平静さを取り戻した。

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自分のためだけにお金を遣いなさい・破 tag:spell.vincent.in,2012://2.2624 2012-08-12T21:02:55Z 2016-10-30T10:09:49Z 歩きながら尻のポケットから定期券を取り出し、自動改札機の読み取りにかざした。 ... vincent. 歩きながら尻のポケットから定期券を取り出し、自動改札機の読み取りにかざした。改札を抜けると目の前に階段がある。Sはいつも通り4番線ホームへと向かった。

ホームへ向かう階段は乗車用と降車用に分かれている。そして、どういう訳か降車用が優先された作りになっていたりする。乗車用は右端に、それこそ人ひとりが通れるくらいのスペースしか設けられていない。金属パイプの手摺で区切られ、1対9くらいの割合で降車用が優先されているのだ。

朝の通勤ラッシュと夕方の帰宅ラッシュ、時間帯に応じて乗車用と降車用を入れ替えても良さそうなものだが、ルールというものは大抵が杓子定規だ。

Sは右端の乗車用をのぼった。いつもそうしているからなのだが、確たる理由があってそうしている訳でもない。刷り込まれた自然は行為に溶ける。

階段の踊り場で金属パイプの手摺も途切れる。Sがそこに差し掛かったとき、突然、降車用のスペースから男が割り込んで来た。下から駆け上がって来たのだろうが、咄嗟に身をかわし衝突を免れた。危ねえな、この野郎… Sの眉間には皺が刻まれたが、彼は詫びるどころか、振り向きもせずそのまま行ってしまった。

『感じ悪いなぁ…』

いつもだったら呼び止めて説教のひとつでも垂れているところだろうが、今日のSはいつもと違っていた。

『あの野郎、俺が百万抱いてんの知ってやがるのか…?』

そう。彼の懐には謎の老紳士Mから貰った百万円があったのだ。

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自分のためだけにお金を遣いなさい・序 tag:spell.vincent.in,2012://2.2625 2012-08-11T08:49:45Z 2016-10-30T10:06:52Z 駅前に張り巡らされた歩道橋を降りると、Sは真っ直ぐに喫煙コーナーへ向かった。 ... vincent. 駅前に張り巡らされた歩道橋を降りると、Sは真っ直ぐに喫煙コーナーへ向かった。歩き煙草は見た目にも格好良いものではないが、喫煙者にとって肩身の狭い世の中になって久しい。

喫煙コーナーは害虫駆除でもやっている勢いで煙がもうもうと立ち込めている。背中を丸めた仕事帰りのサラリーマンなどをすり抜け、設置灰皿の前に陣取った。

徐に煙草を一本取り出し咥えた。向かいのビルの屋上に設置された電光掲示板を仰ぎながら、オイルライターで点火した。

『この時間で30℃だって? そりゃ暑い訳だ…』

一服喫い込み、ゆっくりと煙を吐き出した。

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恋の片道切符の効力 tag:spell.vincent.in,2011://2.2642 2011-10-08T01:56:19Z 2019-10-30T15:47:31Z 「君は今『もう終わりだ』と感じているのかね?」 項垂れた男の傍らに、何処からと... vincent. 「君は今『もう終わりだ』と感じているのかね?」

項垂れた男の傍らに何処からともなく老人が現れた。男は驚いた様子もなく彼を仰ぐと、力なく頷いた。

「そうか。それはそれは」

老人は刻まれた皺を更に顰め、憐憫の眼差しを男に向けた。男は口許に薄笑いを浮かべ、彼を見る共なしに眺めていた。

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シークレット・パラドックス tag:spell.vincent.in,2011://2.2650 2011-07-26T13:35:11Z 2016-11-01T00:28:33Z 「秘密を打ち明けたい」 「秘密?」 「ああ。信頼している人にしか教えたくないん... vincent. 「秘密を打ち明けたい」
「秘密?」

「ああ。信頼している人にしか教えたくないんだ」
「そうか。僕は君の味方だ。何でも話してくれよ」

そう云うと、彼は曇りのない澄み切った瞳を見せた。覚悟を決めたように頷くと、少年が彼に耳打ちした。

「僕は誰も信じていないんだ」

少年の秘密を知った彼の瞳に髑髏が浮かぶ。

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美食家と悪食家 tag:spell.vincent.in,2010://2.2699 2010-04-21T01:02:03Z 2016-11-01T22:41:07Z 美食家と悪食家の会食。 脇目も振らず頬張る悪食家を見遣り、 行列には決して並ばない美食家が云った。 「何処で何を喰うかより、誰と一緒に喰うかが問題だ」 悪食家が片眉を上げる。 徐にナプキンで口許を拭... vincent. 美食家と悪食家の会食。

脇目も振らず頬張る悪食家を見遣り、行列には決して並ばない美食家が云った。

「何処で何を喰うかより、誰と一緒に喰うかが問題だ」

悪食家が片眉を上げる。おもむろにナプキンで口許を拭うと、悪戯っぽく囁いた。

「何処で誰を喰うかより、何と一緒に喰うかが問題だ」

美食家の食指が一瞬止まる。

「成る程。面白い」

口許には冷淡な笑みが浮かんだが、笑みが解けると、やがて糧が運ばれた。

咀嚼そしゃくとは、ひと筋縄ではうまくない。

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Time Control - 量子力学的思考 tag:spell.vincent.in,2009://2.1874 2009-08-02T07:27:05Z 2020-01-23T23:47:54Z 「相対性理論、量子力学、電磁気学、熱力学、カオス理論──どの物理理論も物理法則を表す一組の方程式を基本にしておる」 教授は仰々しく講釈を始めた。 「その方程式には空間上の位置を示す三つの変数xyzと... vincent. 「相対性理論、量子力学、電磁気学、熱力学、カオス理論──どの物理理論も物理法則を表す一組の方程式を基本にしておる」

教授は仰々しく講釈を始めた。

「その方程式には空間上の位置を示す三つの変数xyzと共に、時間を示すtが含まれておる」

助手は恭しく耳を傾けている。

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除思考 tag:spell.vincent.in,2009://2.1912 2009-06-08T11:28:23Z 2016-11-05T15:41:36Z 「どうしたんじゃ? 浮かない顔をして」 「は? や… ええ。まぁ…その…」 「さては、またこっぴどくフラれたかな?」 「や、だったらいいんですけどね… そんな相手も居ないですし…」 「これはこれは…... vincent. 「どうしたんじゃ? 浮かない顔をして」
「は? ええ。まぁ、その…」

「さては、またこっぴどくフラれたかな?」
「や、だといいんですがね…」

「これはこれは。根っ子から悉く浮いていない…」
「教授。とんでもないドSですね…」

「うはは。相手が君じゃちっとも物足りないがね」
「実際、痺れますよ。やれやれだ…」

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天使と妖精と銀狼 tag:spell.vincent.in,2009://2.1936 2009-05-05T05:36:32Z 2016-11-09T04:40:21Z 「ちょっとこっちへおいでよ。 『天使と妖精と銀狼』のお話を聞かせてあげよう」 天使と妖精の背中には翅があるんだ。 だから、自由に空を飛び廻れる。 でも、銀狼の背中には翅がない。 だから、切り立った崖で吼えるんだ。 … vincent. 「やぁ、そこの君。ちょっとこっちへおいでよ。『天使と妖精と銀狼』のお話を聞かせてあげよう」


天使と妖精の背中には翅があるんだ。
だから、自由に空を飛び廻れる。

でも、銀狼の背中には翅がない。
だから、切り立った崖で吼えるんだ。

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朝霧に霞む背徳の男 tag:spell.vincent.in,2008://2.2051 2008-05-18T12:06:32Z 2016-11-14T23:00:12Z 「お待たせ──」 コールしたばかりの携帯電話越しに艶のある声が響く。 受話器を耳に押し当てたまま振り返ると女が立っていた。… vincent. 「お待たせ」

コールしたばかりの携帯電話越しに艶のある声が響く。受話器を耳に押し当てたまま振り返ると女が立っていた。

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再会 tag:spell.vincent.in,2008://2.2061 2008-04-17T14:32:40Z 2016-11-15T23:25:00Z 消灯された部屋で彼は静かにソファに坐っていた。 しばらく、悠々と煙草を燻らしていると、 カチリと鍵の開く音がドアから聞こえてきた。 部屋の灯りを点け、彼の存在に気付くと、 彼女は持っていた荷物を床に落とした。 瞳には明らかに動揺の色が見て… vincent. 消灯された部屋で彼は静かにソファに坐っていた。

しばらく悠々と煙草を燻らしていると、カチリと鍵の開く音がドアから聞こえてきた。

部屋の灯りを点け、彼の存在に気付くと、彼女は持っていた荷物を床に落とした。

瞳には明らかに動揺の色が見て取れる。彼は微動だにせず坐っている。

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癒しのライセンス tag:spell.vincent.in,2008://2.2092 2008-02-29T07:12:26Z 2016-11-17T02:20:03Z 「君の眼の前には透明なガラスの瓶がある──」 「先生… 何もありませんが……?」 昼下がりの柔らかい陽射しが差し込む部屋の一室。 向かい合わせのソファに、ふたりは坐っていた。 … vincent. glass.jpg

「君の眼の前には透明なガラスの瓶がある」
「先生。何もありませんが……?」

昼下がりの柔らかい陽射しが差し込む部屋の一室。向かい合わせのソファにふたりは坐っていた。

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博士と新任助手 tag:spell.vincent.in,2008://2.2093 2008-02-28T17:54:36Z 2017-02-20T00:59:05Z 「必要なこと以外、喋らんで宜しい」 博士が煙たそうに吐き捨てた。 「そんな… わたしはただ… 博士が心配で…」 咎められた新任の助手が眉を潜める。… vincent. 「必要なこと以外、喋らんで宜しい」

博士が煙たそうに吐き捨てた。

「そんな… わたしはただ… 博士が心配で…」

咎められた新任の助手が眉を潜める。

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慟哭と愉悦 tag:spell.vincent.in,2008://2.2109 2008-01-13T06:12:25Z 2016-11-18T00:17:18Z 受話器を耳に押し当てると、 言葉にならない慟哭が響いてきた。 嗚咽混じりの悲痛な叫び。 金属質な金切り声。 きっと、どんなに優秀な翻訳家でも仕事にならないだろう。 それでも、しゃくり上げながら懸命に弁解を試みる。 何段飛ばしの飛び石投げっ… vincent. 受話器を耳に押し当てると、言葉にならない慟哭が響いてきた。嗚咽混じりの悲痛な叫び。金属質な金切り声。

きっと、どんなに優秀な翻訳家でも仕事にならないだろう。

それでも、しゃくり上げながら懸命に弁解を試みる。何段飛ばしの飛び石投げっぱ。センテンスの尻切れトンボ。

彼は為す術なく、受話器を握りしめたまま茫然と立ち尽くすだけだった。

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Yellow Stone tag:spell.vincent.in,2007://2.2218 2007-07-11T16:16:08Z 2016-06-30T22:30:37Z 「ごめんなさい──」 真っ直ぐに視線を向けてきた女の子の唇から堪らず溢れ出した。 男は左手の人差し指と中指に挟まれた煙草を深く喫い込み、 ゆっくりと吐き出した。視線は片時も女の子から外さない。 「どうした? 急に──」 ふっと眼を伏し、灰… vincent. 「ごめんなさい」

真っ直ぐに視線を向けてきた女の子の唇から堪らず溢れ出した。男は左手の人差し指と中指に挟まれた煙草を深く喫い込み、ゆっくりと吐き出した。視線は片時も女の子から外さない。

「どうした? 急に」

ふっと眼を伏し、灰皿に煙草を置いて訊いた。女の子はそれでも視線を逸らさない。

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Whose is this world? tag:spell.vincent.in,2007://2.2227 2007-06-24T00:31:00Z 2017-03-09T13:22:14Z 「フンッ。何がそんなに面白いんだか──」 カウンターで背中を丸めた男が独り。 背後に感じる他愛もないカップル同士の戯れに毒づく。 「随分、ご機嫌斜めだな──」 毒ずく男にふらりと細身の優男が近付いた。 … vincent. 「フンッ。何がそんなに面白いんだか」

カウンターで背中を丸めた男が独り。背後でざわつく他愛もないカップル同士の戯れに毒づく。

「随分、ご機嫌斜めだな」

毒づく男にふらりと細身の優男が近付いた。

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通りすがりの魔法使い - Particle Shower Serenade tag:spell.vincent.in,2007://2.2234 2007-06-09T14:05:00Z 2019-11-08T00:22:09Z 降り頻る土砂降りの雨の中、 ひとりの男が傘も差さずに立ち尽くしている。 長目の前髪は遮眼帯のように重く垂れ込め、 眼光の奥に宿った妖しげな光を封印していた。 … vincent. wizard vincent.
降り頻る土砂降りの雨の中、ひとりの男が傘も差さずに立ち尽くしている。長目の前髪は遮眼帯のように重く垂れ込め、眼光の奥に宿った妖しげな光を封印していた。

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Jewel tag:spell.vincent.in,2007://2.2259 2007-05-01T15:33:00Z 2016-11-25T04:08:30Z もう二度と逢えない。 絶望感ではなくて、 心の奥にあるジュエリーボックスに 宝石をそっと仕舞う感覚なんだ。 そうすれば、人目に晒されることもなく、 いつまでも、輝きを失しなわずに済む。 世界にたったひとつしかない宝石さ。 何よりも美しい。... vincent. もう二度と逢えない──。

それは絶望感ではなくて、
心の奥にあるジュエリーボックスに
宝石をそっと仕舞う感覚なんだ。

こうすれば人目に晒されることもなく、
いつまでも輝きを失わずに済む。

世界にたったひとつしかない宝石。
何よりも美しい掛け替えのない輝き。


ただね。
その宝石を見ることはもうできないんだ。
鍵を掛けられてしまったからね。

僕の身体を引き裂いてごらんよ。
ジュエリーボックスが出てくるはずさ。
きっとね。

とても重くて、誰にも開けられないのさ。
あの子が鍵を持ち去ってしまったからね。

でもね。
あの子は意地悪してる訳じゃないんだ。
我慢が足らないからお仕置きしてるのさ。

お預け──かな?


また、ふたりっきりで眺めたいね。
綺麗な宝石を眺めながら、
あれやこれやとお喋りするんだ。

きっと楽しいよ。
うん。楽しいに違いないだろうね──。

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passion play - 情熱遊戯 tag:spell.vincent.in,2007://2.2262 2007-04-16T19:35:00Z 2016-11-25T04:55:45Z この空間はね。時間が止まっているんだ。 だから、何も始まらないし、何も終わらないんだ。 フフ、ちょっと素敵だろ? ずっと、何ひとつ変わらないんだ、ずうっとね。 ほら、怖がってないで、こっちおいでよ。 時間の拘束がない、心地好い空間さ。 君... vincent. この空間はね。
時間が止まっているんだ。
だから、何も始まらないし、
何も終わらないんだ。

フフ、ちょっと素敵だろ?

ずっと、何ひとつ変わらないんだ、
ずうっとね。
ほら、怖がってないで、こっちおいでよ。

時間の拘束がない心地好い空間さ。
君はそれを味わう権利があるんだ。

え? 誰が決めたのかって?
僕だよ。僕の個人的職権乱用さ。

僕はこの空間の支配者。僕がルールさ。
──と云っても、
僕と君のふたりしか居ないけどね?

ふたりだけのルールさ。守るのは簡単だろ?
さぁ、おいでよ。
何故、そんなに怯えてるんだい?
僕が怖いのかい?

え? 僕が見えない?
声も聞こえないって?
じゃ、僕は一体、誰と喋ってるのさ?
僕が独り言を云ってるだけだって?

そんなことはないよ。僕には君が見える。
君の小刻みに震える肩が見える。
恐怖に怯える瞳が見える。
今にも泣き出しそうだ。

そう、分かったよ。
それでも立ち尽くしたまんまなんだね?

いいよ。
時間が止まっていることを
──証明してあげるよ。


次の瞬間、眩い閃光と共に真っ赤な花吹雪が舞い散り、首と胴が泣き別れた屍が転がった。動かなくなった肉塊の周りに深紅の海が広がる。


ほら、嘘じゃないだろ?
時間は止まってるんだ。
何も始まらないし、何も終わらない。
永遠に──。


夢見るように微笑むと、深紅の海に横たわる永遠を一瞥、興味のなくなった玩具を眺める子供のような瞳だった。


さて、次は誰と遊ぼうかな──?

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博士と静寂の時空 tag:spell.vincent.in,2007://2.2290 2007-01-05T06:45:00Z 2016-11-27T01:49:10Z 「博士。例の研究ははかどってますか?」 「うるさい。少し待っておれ。やいのやいの…」 「しかし、研究発表まで日が…」 「そのときは時空でもねじ曲げたるわい」 ... vincent. 「博士。例の研究ははかどってますか?」
「うるさい。少し待っておれ。やいのやいの…」

「しかし、研究発表まで日が…」
「そのときは時空でもねじ曲げたるわい」

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近衛連隊長の責務 tag:spell.vincent.in,2005://2.2456 2005-06-15T15:02:00Z 2016-12-04T15:47:40Z 6月16日 曇天・雨天 16:30未明 姫君は、祖国一時帰国のための乗車券を警護させている 皇帝閣下が建造されたトラベルツアー宮殿まで、 御自ら向かわれた。... vincent. 6月16日 曇天・雨天

16:30
姫君は、祖国一時帰国のための乗車券を警護させている皇帝閣下が建造されたトラベルツアー宮殿まで御自ら向かわれた。

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姫と皇帝のありふれた1日 tag:spell.vincent.in,2005://2.2457 2005-06-15T15:01:00Z 2016-12-04T15:56:51Z 14:00頃、起床。 皇帝は、皇族御用達ボトル珈琲を飲みつつ、 昨日、街の職人に焼かせたパンを食す。... vincent. 14:00頃、起床。

皇帝は皇族御用達ボトル珈琲を飲みつつ、昨日、街の職人に焼かせたパンを食す。

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